業界の関心はドイツのノイホルムから米国のリフォームヘ(13)

2022年12月6日

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この頃、日本の業界の関心はヨ-ロッパ、なかでもドイツに向けられていた。理由は健康分野の産業の先進国だったからだ。

私がこの仕事を始めた頃、山之内製薬のハーブキャンディはすでに世の中に知られていた。1972年には発売していた製品らしいが、これは「のど飴」の草分け的な商品である。編集部の同僚の話ではこのキャンディを出すために、山之内製薬はわざわざ社員をドイツまで留学させたという。留学先はドイツのノイホルム協会の運営するレホルムアカデミーという学校だった。たかがのど飴、されどのど飴なのだ。この仕事の奥深さの一端を知った思いがした。

日健協の事務局次長になった加藤嘉昭氏に取材のついでにノイホルム協会のことを聞いてみた。この時期、事務局は東京の市ヶ谷に移転していた。話は長くなりそうなので、近くの喫茶店に行った。この人は物知りで、健康分野のことなら粗方知っている。案の定、加藤さんはノイホルム協会のことを知っていた。

それによると、話はヨ-ロッパの産業革命までさかのぼる。18世紀半ばから19世紀にかけて起こった産業革命は、イギリスの羊毛産業などの技術革新から始まった手工業の生産から工場制の生産への変化は経済や社会に多大な影響を及ぼした。もちろん植民地支配と並んでヨ-ロッパに空前の繁栄をもたらした。

「しかしその急速な繁栄は負の遺産ももたらした」

そこで「マルクスですか」と茶化すと公害と健康問題だという。つまり化学物質による環境汚染、大気汚染、異常気象、さらに食品添加物や農薬などが健康問題ももたらしたという。こうした悪化した環境や健康を取り戻す自然回帰の運動がレホルム運動だという。山野を歩くワンダーフォゲルなどもこの運動から生まれたようだ。

この「レホルム」というドイツ語は英語では「リフォーム」に当たるそうだ。ただし日本で使われている「rehome」は和製英語で、正しくは「reform」で「改善する」「改革する」などの意味がある。

その運動の一翼を担う機関としてノイホルム協会が設立された。この協会によって提供される製品の厳格な基準、教育するアカデミー、基準を満たした製品を販売する店「レホルムハウス」がつくられた。ここで承認された製品は、アカデミーで教育を受けた有資格者がレホルムハウスでのみ販売する。このお店はドイツ国内で4000店、ヨ-ロッパ全体では1万2000店を数えるといわれている。

「日本の協会でもこうしたことが出来るといいんだが」と加藤さんはいう。出来立ての協会としてはドイツを目標にしたいらしい。協会の幹部でドイツに視察に行った人は多いという。

しかしドイツのようなシステムを設けることはそう容易なことではなさそうだ。つまり今の日本では厳しすぎるといいう。たとえば製品の品質基準一つとっても、企業の考え方はまちまちっだし、それ以前の企業も少なくない。

その頃、鉱物系の素材ではなく、植物系の素材を使った化粧品が“自然化粧品”として、女性誌などで採り上げるようになっていた。健康自然食品の店頭でもこうした化粧品が人気を呼びつつあった。そこで“自然化粧品”の特集をすることになった。アロエを使ったもの、アボカドを使ったもの、うぐいすの糞を使ったものなど様々な化粧品の企業を取材した。なかでも業界で知られた椿油の自然化粧品があった。問屋の担当者に聞くと「食べられる化粧品だ」というのが売り物だった。使っているのはすべて食べられる素材で、添加物は一切使っていない。このため冷蔵庫で保存しなければならない。「本物の無添加化粧品だ」と言って胸を張った。

ところがしばらく経って、“自然化粧品”の名称を聞かなくなった。代わって“自然派化粧品”というようになった。理由を聞くとなんということはない。自然化粧品として売られていた化粧品には防腐剤が使われていたことが分かった。使うことは法律の規定で義務付けられていたらしい。販売している人も、消費者もいい面の皮だ。結局は騙されていたわけだ。そして名称は自然志向の人、つまり“自然派”の人が使う化粧品だということで、自然派化粧品になったらしい。やはり日本人には厳格なドイツ人気質が合わないらしい。

しばらくすると業界は米国に目を向けるようになった。

(ヘルスライフビジネス2014年10月15日号「私の故旧忘れ得べき」本紙主幹・木村忠明)

※第14回は12月13日(火)更新予定(毎週火曜日更新)