健康食品の広告・販売 規制事例の分析と研究(5)

2022年12月7日

※「ヘルスライフビジネス」2022年5月1日号掲載の記事です。                        4月になって、健康訴求広告の薬機法による摘発は見当たらなかった。景表法の措置命令が2件、内職商法に関する注意喚起が1件、各々公表されているが、当欄で解説するまでもないように思われる。そこで今回は前号で解説した3月31日公表の機能性表示食品(キノウ)広告に関する消費者庁の改善指導について補足したい。キノウ市場は拡大を続け今や不動のものとなっているが、広告の規制上の判断基準は筆者にはまだわかりにくい点が多い。3月31日に示された基準を含め、ここで筆者が理解している規制基準を整理して、実務上の留意点を解説することにしたい。

機能性表示広告の規制基準の要点に関する分析と検討

医薬品ができない表現と誤認させる表現の規制

まだわかりにくい届出表示省略に関する基準

キノウ広告の規制基準の要点は何か

 トクホ・キノウ広告に身体の機能性の改善・維持に関する表現が許容されるようになって久しい。今更言うまでもないが、トクホ・キノウと栄養機能食品(エイキ)は、食品広告が医薬品広告と誤認されることを禁止している薬機法68条の判断基準である「46通知」と矛盾する制度である。

 審査があって機能性の許容範囲が狭かったトクホのみの時代にはこの矛盾は目立たなかったが、免疫や認知機能などに関する表現が許容されるようになってから、目立つ一方になっている。

 しかし、キノウとトクホが対象外になるとされただけで、46通知の抜本的な見直しはまだ行われていない。このために、食品表示法を根拠とする食品の機能性の表示とその広告表現が、46通知が医薬品の効能効果とする「身体の組織機能の一般的増強、増進を主たる目的とする」ものと、どのような関係にあるのかが曖昧なままになっていると言わざるを得ない。

 筆者はキノウ広告の規制基準の要点を以上の背景に基づいて理解している。

医薬品と誤認させる広告表現の規制

 ここではキノウに限定して述べるが、医薬品にしか使えない身体の機能性に関する表現が、特例として許容されたわけである。当然、キノウと医薬品の広告表現の境界が微妙なものになることは

制度創設の時点から自明だったと言える。

 キノウの届出表示の表現には医薬品でないことを示す綿密な工夫の跡が感じられ、届出の際に行政側との調整が行われていると推測される。

業界のキノウ広告自主基準では「届出表示の内容が強調・誤認されることのないように十分注意」すれば「届出表示の内容を一部省略・簡略化・言い換え・補足説明」は、許容されている。

 しかし、今回の改善指導例のように、機能性の内容が具体的に特定されているのに、それを無視して「認知機能改善」と強調したのであれば、医薬品と誤認させる表現とされても仕方ない。

 だが、届出表示内容の逸脱とされなければ、キャッチコピーでの省略などは可能なのだから、今回の事例は実務上の参考にできる。

医薬品ができない広告表現の規制

 今回の措置は改善指導で処分ではないが、平成29年に葛の花由来イソフラボンを同じ関与成分とする16社のキノウ広告が同時に措置命令を受けている。キノウ広告の処分例は今のところ、この事例だけである。

 最大の処分理由は、製品の使用前と後の比較写真や体験談の使用により腹部の痩身効果を保証するかのような表現や、運動や食事制限をせずに痩身効果を得られるといったことを強調するような表現にあったと言われている。

 このような表現が処分されたのは、規制基準に抵触することが明らかな点にあるのはもちろんだが、最大の理由は、薬品広告の次のような規制基準にあることは間違いないだろう。

「医薬品等適正広告基準」では「効能効果等又は安全性を保証する表現」が厳しく禁止されている。使用前後の比較も体験談も、効果の保証表現として使えないのは当然である。

 キノウ広告では、使用前後の比較写真や体験談の使用が許容されるのだとすれば、医薬品広告ができない表現ができることになる。医薬品側としては絶対に許容できないはずだ。

キノウ広告規制の今後の動向の検討

 食品の機能性表示が、医薬品の機能性に関する効能効果とは別なものであることが明確になるように46通知が改訂されなければ、キノウ広告の医薬品広告の規制基準に基づく規制は続くことになる。そして、46通知は厚労省の規制基準であり、消費者庁が改訂できるものではない。

 厚労省側が、キノウ広告の表現が医薬品のできないものだとか、誤認させるものだと判断すれば消費者庁がそれを否定することは難しいだろう。

 キノウ広告は46通知の対象外であっても、届出が撤回されれば一般健食になるので、規制対象になる。そうなれば、未承認医薬品として薬機法の摘発対象にすることも可能である。キノウ広告の規制基準の要点は、このような背景の中にあると理解するべきだろう。

 理想的な解決策は、行政庁間の力関係にあるとすれば、業界はそのことにもっと関心を持つ必要があるように、筆者には思える。

特に、届出表示の省略については今後も指導が続くと思われる。行政指導では、当事者以外に正確な内容の把握が困難である。その点にどのように対応するかの検討が重要になると、筆者は考えている。

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