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つかれ酢裁判が関わっている(141)
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西野さんとそんな話をしていると、そろそろ会議が始まるという。コーヒーをご馳走になったお礼を言って席を立とうとすると、「そうだ、言い忘れた」と言って急に声を潜めて、「今回の事はうちも絡んでいたようだよ」と言った。経企庁の健康食品の調査である。
「どういうことですか?」というと、詳しいことは言えないという。しかし経企庁と厚生省の集まりに声が掛ったから会議には出た。しかしあくまで出ただけだと言う。「だって、うちは食品を守る立場だからね」とも付け加えた。
取材から帰った面々が編集部の机を囲んで会議が持たれた。その席で私の取材先の報告をした。
「つまり農林省は健康食品を潰すような動きには乗らないということでしょう」と言うと、「それにしても農水省まで絡んでいようとは…」と言って、編集長はため息をついた。ことは結構深刻だということか。
「しかし農水省がこの企みに加わらなかったことは心強い」と葛西博士はいう。
そもそも農水省というのは農林水産業の健全な発達、これらに従事する人の福祉の向上、そして食糧の安定供給などを行う行政機関だという。
「つまり農協を支配する官僚機関ということだろう」と私が言うと、「それを言っちゃあおしまいだ」と寅さんのセリフである。博士は意外に俗なのである。なにはともあれ、食品については産業の育成官庁だといいたいわけだ。だから厚生省と組まないのは、当然といえば当然のことでもある。この当時は栄養成分の表示でも、厚生省版と農林省版があって、競合していた。
「ところが厚生省は違う」と葛西博士。彼らは本を正せば内務省である。この役所の氏素性は決して良いものではない。内務省は戦前には官庁の中の官庁といわれ、絶大な権力を握っていた。その一つが警察行政である。悪名高い治安維持法の主務官庁で、特高警察の叢元締めとしても知られ、戦後GHQによって解体された。
この役所の外局である衛生局と社会局から1938年(昭和13年に)つくられたのが厚生省である。つまり警察行政、言い換えれば取り締まりが仕事なのである。産業育成の役割などは全くないのである。
「とにかく今回の問題はやはり厚生省が主役だ」と葛西博士は断定する。彼の受け持ちは厚生省薬務局の監視指導課だった。取材に行くと思った通りの波能だった。経企庁の調査は我々がやったことではないと木で鼻をくくったような返事だ。それでも記者根性で食い下がった。それで調査の過程で経企庁の相談は乗ったことだけは認めた。
その相談で業者へのおとり捜査まがいのやり方を入知恵したのではと迫ったが、知らぬ存ぜぬというばかりで口を割らない。それでは調査で薬事違反が見つかった業者をどうしたか聞いたところ、「当然、取り締まったよ」という答えだった。「それじゃあ、まるで食い逃げだ」と言ったら、「なにお!」と怖い顔で睨み付けられた。怖いはずで、この監視指導課は先々、麻薬Gメンで知られる麻薬対策課と一緒になったほどで、薬事法違反の取り締まりには慣れている。博士は慌てて「さよなら!」と言って席を立った。
なんで食い逃げなんだと聞くと、お金や汗をかいたのは経企庁で、厚生省は業者を取り締まる成果だけを手にしたというのが理由らしい。
編集長と岩沢君は参議院議員会館へ行った。業界が唯一関係を持っている国会議員が丸谷金保さんだった。丸谷さんは以前にも書いたが十勝ワインの生みの親で、北海道選出の参議院議員になった。総理になった村山富市らと大学が同じで社会党の所属して参議院決算院長としても活躍した。健康食品業界のリーダーの一人の渡辺正三郎さんが大学時代の同級生だったことで業界と縁が出来た。それで国会で健康食品問題を何度も取り上げてくれていた。経企庁の調査の背景が何かわかればということで訪ねたのだ。
「詳しいことは分からないが…」と丸谷さんが話したのは、健康食品を厳しく取り締まろうとしていることは間違いないようだということだ。ならば主犯は厚生省の薬務局だ。渡部さんから出た話だから間違いないという。渡部恒三だとすると田中派の重鎮で、現役の厚生大臣である。
「どうも、つかれ酢裁判が関わっているようだね」と付け加えた。
(ヘルスライフビジネス2020年2月15日号「私の故旧忘れ得べき」本紙主幹・木村忠明)