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一日1時間は英語を勉強しないさい(151)
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「世界と比べて日本はかなり後れをとっている」と渡辺先生。生活習慣病の時代への予防医学の対応だ。そのために食事の改善は言うに及ばず、サプリメントの必要性も認められなくてはならないということだ。
そのための一助となればとこの本を出した。そして「願わくば多くの方に読んで頂き、役立てて頂きたい」と話を締め括った。大きな拍手が沸いた。
講演会が終わった後、名刺交換をする人の長い列が出来た。帰り際に、先生がコ―ヒーでも飲むかと言う。喫茶店の椅子に座ると、私に向かって「どうだった」と聞く。聴講者の反応である。「みんな感動してました」と感じたままに言った。すると「ちゃんと本を読んでくれると良いんだが…」とつぶやく。
たいがいの人は話を聞いても、しばらくすると忘れてしまうものだと先生は言う。自分のことを言われているような気がしたが、確かに人とはそうしたものかもしれない。しかし本など読んだものはよく覚えている。そう言うと、「だから自分で勉強することが大事なんだ」とまたいつものお説教だ。それに加えて先生は次のように言い出した。
「これからのジャーナリストは英語が出来なければダメだ。英語を勉強しないさい」
確かに語学の必要なことは分かっている。日本は欧米の進んだ知識を取り入れて発展してきた。江戸時代の初期にはポルトガルやスペインなどの欧州の知識を南蛮学と言ったそうだ。その後に唯一交易国になったオランダから西洋の進んだ知識を取り入れるようになった。これを蘭学という。日本の近代医学はこの蘭学が元になった。
さらに幕末には欧州以外にも米国からの知識を取り入れた学問を洋学と呼ぶようになった。この西洋の知識の上に打ち立てた近代国家が明治である。明治以降も同じで、明治憲法はドイツとイギリスの憲法を参考につくられたと言われる。起草したのは伊藤博文と井上馨である。
明治以降、日本は1920年までイギリスと同盟関係にあった。そして1940年にはドイツと同盟関係を結んだ。それでイギリスやドイツから様々な知識を取り入れたが第2次世界大戦が終わると、今度は米国に学び急速な経済発展を遂げて行く。
渡辺先生も戦前に1年間会社から派遣されてドイツに留学していた。この頃は東京大学で博士号を取るチャンスだったが、戦争でそれどころではなくなったと残念そうに話していたのを思い出す。戦争が終わると度々米国に行くようになった。そんな中、プリントン大学でアインシュタインに会った話を懐かしそうにしていたのを思い出す。
さて、コーヒーを啜りながら先生の話は続く。
「残念ながら、今も欧米の方が日本より進んでいることに変わりはない。特に栄養学では日本は米国より50年遅れている」
だから米国の新しい知識を学べというのだ。確かにこの仕事に就いてみると、サプリメントの先進国は米国だった。英語が必要だということは分かっていた。
すると先生は「一日1時間英語を勉強しなさい」と言うのである。私はまだ32歳だった。この会社に定年までいたとして28年ある。もちろん会社がその年まであったとしての話だが。さらに渡辺先生の年になるまでにはさらに36年もある。
「毎日1時間勉強したら大変な蓄積になる」と言う。確かにその年まで勉強したら、相当な知識が付くことは間違いないし、それ以上に活躍の場も広がると思う。分かっている。分かっているが、これがなかなかできそうにもない。
私には時間がないという言い訳が頭をもたげた。昼間はもちろん仕事がある。だとすると、朝か夜だが、朝は出勤ぎりぎりまで眠っている。夜は夜で、酒を飲むので無理だ。これも仕事上の付き合いだったり、取材の延長線なので止められない。
すると先生は「ほどほどに切り上げなさい」と言う。ほどほどならば最初から飲まない方がましだというと、呆れたのか「とにかく、どうしたら良いか自分で考えなさい」と言うことで話は終わった。
この頃、私に限らず大手の企業の人でも苦手な人が多かった。大学の先生でも論文は読めても会話となると、ちんぷんかんぷんな人は決して珍しくはなかった。そのことは、この年行った米国で福場先生と米国農務省(USDA)の役人の会話で分かった。
(ヘルスライフビジネス2020年7月15日号「私の故旧忘れ得べき」本紙主幹・木村忠明)