大量のビタミンCは酸化の効き目を発揮する(162)
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一行を乗せたバスはハイウエイの280号に入り、研究所のあるメローパークへとスピードを上げた。ホテルのあるサンフランシスコのユニオンスクエアから研究所までは1時間以上はかかる。窓の外を眺めながら、ポーリング博士の本を思い返した。
「ビタミンCと風邪、インフルエンザ」(共立出版)が日本で出たのは1977 年、「がんとビタミンC」が1981年だった。2冊の本は数年前に記者会見で葛西博士がもらって来た。それが会社の本棚にあった。両方読んだが、風邪やインフルエンザの方に関心を持った。
私の一族にがんは一人もいなかったし、若かったせいか身近な人にもいなかった。しかし風邪は違った。私は小学生の頃、毎年冬になると風邪を引いた。すると扁桃腺が腫れて、たいがい熱が出た。高い熱が出たときは、鏡をのぞくと喉の奥の扁桃腺らしきところが赤く腫れて白い膿も見えた。病院に行くと喉に消毒のルゴール液を塗られた。ウイルスなどによって起こるのは風邪と同じだが、厳密には扁桃腺炎とは違うようだ。しかしずっと後まで風邪で扁桃腺が腫れると思い込んでいた。
そのうち慢性扁桃腺炎といわれるようになった。それで小学校5年生の時に手術することになった。母が看護師だったこともあって、手術は勤めている病院でやることになった。麻酔は注射で喉に打つ。そして先の曲がったハサミのような医療器具で切り取るという。当日になって怖くなった。手術室のベットの上でかなり抵抗した。それで麻酔薬をかなり飲み込んだらしい。次第に視界が狭くなって、穴の中から外を覗いているような感じになった。穴の外では医者や看護婦さんが右往左往している。記憶はそれっきり途絶えた。
目覚めると病院のベットの上にいた。しばらくして母がやってきて、「お前は死にかかったんだよ」と手術が中止になったことを告げた。不思議なことに中学生になって以降、扁桃腺炎に罹ることは少なくなった。しかし以降も風邪には関心があった。
これらの本を読んで印象的だったのは、ビタミンCには抗ウイルス作用があり、風邪やインフルエンザだけでなく、他のウイルス感染症にも効くというメカニズムが書いてあったことだ。
それによると、人の細胞の結合に重要な働きをするコラーゲンの合成にビタミンCが関わっている。身体の組織細胞の結合には細胞間のセメント質を強固にすることが大事なのだそうだ。そのセメント質はヒアルロン酸というムコ多糖類を含んでいる。そしてその中にコラーゲ ンの微細な繊維がある。
これはビタミンCの摂取が少ないと合成されない。ビタミンCが足りないと、細胞間物質は液状なって結合力が弱まり、細胞は離れやすくなるという。インフルエンザに限らず、ウイルスが通り抜け易くなる。つまりはビタミンCが足りないと感染し易く、十分だと感染しずらくなるのだ。
ここまでは「なるほど」と思った。しかしもう一つの理由はどうも分からない。大量に摂ったビタミンCは体内の銅などのミネラルに反応して酸化するという。しかしビタミンCやEは添加物として酸化防止剤に使われていた。つまり抗酸化剤であった。それが酸化して新たな機能を持つとは驚きだ。コペルニクス的転回と言うのだろうか、私の頭は混乱した。
「どうも良く分からないんですよ」と、隣の席に座っている渡辺先生に聞いた。「ちゃんと読んで来たんだなァ」と褒められた。私だって本くらいたまには読むのだ。
活性酸素の研究は米国のフリードリッヒらの研究で1950年くらいから始まっていた。これが1969年に弟子のマッコードが無害化する酵素スーパーオキシド・デス・ムターゼ(SOD)を発見して研究が急速に進むことになる。しかし私たちのレベルではこの頃ほとんど知られていなかった。しかし渡辺先生はそのことをある程度知っていたのかもしれない。数年後に健康へのフリーラジカルの影響と抗酸化栄養素の詳細なレポートを頂いた記憶がある。
「酸化を防ぐビタミンCの量と、酸化を促進する量があるのでしょうか」と聞くと、「木村君、それは良い質問だ」とまた褒められた。なんだかこんなに褒められると、いつも怒られてばかりの弟子としてはいいささか照れる。
先生はポーリング博士と村田教授(佐賀大学教授)らの研究を例に挙げた。それによると、ウイルスを不活化するには血液100㎖中にアスコルビン酸を3㎎にする必要があるのだそうだ。このためには大量のアスコルビン酸を口から摂るか、2000㎎、3000㎎のビタミンCを静脈注射することが必要になるのだそうだ。
しかも濃度が高いほど効果は早く現れる。数種のウイルスを10~20分以内に99%不活化するためには20gのビタミンCを静脈注射が必要になるという。べらぼうな量だ。
「この量だと酸化の効果があるということを見つけ出したのはポーリングらの慧眼だ」
(ヘルスライフビジネス2021年1月1日号「私の故旧忘れ得べき」本紙主幹・木村忠明)
※第163回は10月14日(火)更新予定(毎週火曜日更新)