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米国ではエイズが流行り始めていた(166)
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ダウンタウンの風景が一変しているのに気が付いた。以前来た時にはホテルの入口に鈴なりになっていた〝お姉ちゃん〟たちがいないのだ。マリリン・モンロー以来、日本の男たちはブロンドやブラウンの髪の女性に弱い。そしてその頃のサンフランシスコのダウンタウンのホテルの入り口にはそうした若い女性たちが群がっていた。
現地の旅行者に聞くと、「あれは売春婦ですよ」と言う。売春婦というとそれを生業にしている女を思うが、彼女たちはアルバイトなのだそうだ。大半が学生で、夏休み中の割の良いアルバイトというわけだ。売春というとなんだか暗いイメージが付きまとうが、「こちらはフリーセックスの国で、どうって言うことはないみたいですよ」と言う。
ついでに言うと、日本人は人気だそうだ。金払いが良い。それに病気(性病)がないからだそうだ。休みが終われば客も少なくなるし、彼女たちはそれぞれが学校に戻ることになるそうだ。所変われば品変わるというが、当時の日本では考えられない話だった。ところが、その〝お姉ちゃんたち〟の影も形もない。
「オリンピックでロスに行ったんでしょう」と言う。確かにそちらのほうが稼げそうだ。そういえばあと数日でロサンゼルスオリンピックが始まるはずだ。
ところが旅行社の山口さんは違うことを言う。
「エイズですよ。エイズ」エイズはヒト免疫不全ウイルスによって引き起こされる疾患のことだ。1981年頃から、米国のニューヨークなどの同性愛者の間に広がっているといわれていた。後に米国のポップアートの旗手アンディ・ウォーホルやロック歌手で有名だったフレディ・マーキュリーが亡くなったが、この時期にはフランスの哲学者ミッシェル・フーコーが亡くなった程度だった。日本人で患者が死亡したのは翌年で、血友病患者の血液製剤での感染などを知る由もなかった。それで同性愛者がセックスを介して移ると思い込まれていた。
「つまり、私たちには関係ないから…」とメニューを見ながら佐藤さんが言う。昼間フィッシャーマンズワーフで出会ったテニススクールの仲間の女性の一人だ。24歳のOLで、そこそこの美系だが、やや生意気である。もう一人は一つ上で、仕事を辞めて家事手伝い。海外旅行とはいい気なもんだ。それにもう一人は大学生で来年卒業だと言う。就職は平気なのか。
シェラトンホテルのフロントで会った彼女たちは、昼間と打って変わって、おしゃれな服装をしていた。聞くとすでに行くレストランは決めたと言う。ガイドにあった店を予約しそうだ。ステーキやロブスターを出す、まずますの店だ。
席に着くとウエイターがオーダーを取りに来た。
「この街は気に入りましたか」と日本語で言う。日本人客が多いからだろう。白人のいい男だ。顔だけではなくスタイルもいい。注文取りながら、「どこから来ましたか」とさりげなく聞く。「東京です」と嬉しそうに答えている。「いつまでこちらに…」とも聞いた。デートに誘われているわけでもないのに、それだけでそわそわしている。
「ああ言ういい男にホモが多いらしいよ」と言うと、「エッエッ、やだあ」と言って、後姿を目で追っている。ワインまで飲んで盛り上がったが翌日は早いと言うので、東京での再会を約束して、お開きにした。支払いの段になって、「ご馳走様です」と言って3人一斉に頭を下げた。畜生!やられたと思ったが、仕方がない。これでお土産代としてとっておいた1万円が消えた。
帰りに宿泊先のホテルのロビーで呼び留められた。今回の参加した人たちがバーで飲んでいるので行かないかと言う。ちょっとならと付いて行くと、皆だいぶ酔っていた。そして大手食品企業の部長のMさんのことが話題になっていた。今日の昼間、やはりツアーに参加していた従妹と称する子会社の女性を連れて、ポートランドに旅立ったと言う。
「自分たちのお金で行ったんだから文句はないが、まずいよね。彼女を連れて来ちゃあ」と中の一人が言い出した。そういえばほとんど2人は我々と別行動だった。しかも部屋が同じだったようだ。
日本について成田空港で、2人の荷物が間違って来ていたこと山口さんから後で聞いた。なんだか気の毒な気がした。
(ヘルスライフビジネス2021年3月1日号「私の故旧忘れ得べき」本紙主幹・木村忠明)