健康食品とは機能性食品のことでは?(170)

2025年12月2日

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この頃にはまだ業界団体は2つしか存在しなかった。一つは以前から唯一の団体として活動して来た専業業者の集まりである全日本健康自然食品協会である。もう一つは前の年に出来たばかりの製薬企業で健康食品を手掛けている企業の集まりである薬業健康食品研究会である。これに加えて、水面下で大手食品企業の集まりが出来つつあった。 

そしてこれは財団法人設立に合わせるように健康食品懇話会(健康と食品懇話会)として翌年2月に旗揚げすることになる。

この間の厚生省に何があったのか。その動きを後に当時の対策室の専門官だった中嶋茂さんが語っている。2015年にクロレラ健康栄養研究会の『食と健康を科学する』の第2巻に掲載された対談である。

この中でこの間の動きは「それが事の始まり」だとしている。この「それ」とは1983年の経企庁や国民生活センターなどが行った健康食品の実態調査のことだ。この経緯についてはこの連載ですでに触れているが、ざっとおさらいする。

経企庁の実態調査は1984年春に発表され、健康食品には効能効果や虚偽誇大の表示が多いという指摘がされた。これを受けて厚生省の薬務局は5月に薬事法違反の取り締まりの通知を都道府県に出した。と同時に公正取引委員会が健康食品の景品表示法違反の取り締まりについて通知を出して、取り締まりを開始した。

「けしからんやつを、とりあえず抑えよう」と中嶋さんは言っている。さらに翌年の6月には厚生省の薬務局と公取委の連名で、「痩身効果などを標榜するいわゆる健康食品の広告などの注意点」を出した。

こうした一連の健康食品潰しを見ていた厚生省の食品部局(生活衛生局)が動き始める。健康食品が食品ならばその安全性を管轄するのは本来食品部局の役割である。その立場からとりあえず健康食品とはどんなものか実態調査しようと言うことになった。

正式には「健康志向食品衛生対策事業」で1984年と85年の2年間に亘って調査が行われた。全国で140製造施設に立ち入り調査して製品のサンプリングをしたというから、全国の保健所が動いた相当大規模な取り組みに違いない。さらにゲルマニウム、食物繊維、酵素、非生物に起源の原料などの180か所の施設に立ち入り調査もした。これは①科学的に合成したものやそれを原料にしたもの、②特定成分を抽出し、濃縮したもの、③微量元素を生物濃縮したもの、④鉱物を原料としたもの、⑤一般的に飲食物として食べられていないものなどを調べたのだ。

こうした調査が行われていたことを、どうしたことか業界も新聞の我々もまるで気付かなかった。不覚と言えば不覚だが、よほど秘密裏に行われたのだろう。そしてこの結果が翌年明らかなにった。そして意外な結果だった。健康食品は品質面や安全性などが分析などを含めて詳細に調べられたにも関わらず、問題になることは見つからなかったのだ。

「逆にいわゆる健康食品は一般の加工食品に比べると、はるかに衛生的」だった。微生物も非常に低く、有害金属、農薬などはほとんど検出されなかったと中嶋さんは述べている。安全性に問題はなく衛生面でも優れている。しかも国民の間でブームになっている。これは何なのかと情報収集しているうちに、文部省(文部科学省)の特定研究に辿りついた。この年「食品機能系統的解析と展開」と言うテーマで特定研究という班がスタートしていた。いわゆる機能性食品という3次機能を持った食品の概念を生み出すことになる研究が始まっていたのだ。

「健康食品とは、ひょっとしたら、この第三次機能を持っている食品かもしれない」と中嶋は思った。

(ヘルスライフビジネス2021年5月1日号「私の故旧忘れ得べき」本紙主幹・木村忠明)

※第171回は12月9日(火)更新予定(毎週火曜日更新)

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