反響呼んだ葛西博士の連載記事(177)

2026年1月20日

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「連載読んだよ。いやア、大したもんだ」

「日本にもまともな学者がいるんだねェ」

「皆にコピーを配ってるんだ。もちろん、購読も薦めてるよ」

連載が始まると読者の声が次々と入ってきた。大半が電話だが、取材に行った記者に直接言う人もいた。専門紙の場合、読者からの反響はあまりない。関心ある記事は読んだり、社内で回覧したりするが、電話を入れるのは記事に関連した資料が欲しい場合くらいだ。しかしこの連載記事への反応は違っていた。

連載が始まってすぐに反応があった。理由は分かりやすかった。健康情報シリーズでサプリメントの存在を頭から否定するような行政側の姿勢に、業界関係者の間に反感が広がっていた。ところが、連載に登場した学者がそのサプリメントの存在を肯定的にとらえていることが分かったからだ。

例えば最初に登場した稲垣さんだ。学者としてはビタミンCの国の栄養基準(栄養所要量)を否定はしなかった。しかしそれ以上の高い量のビタミンの摂取の必要性な場合があるとの考えを示した。しかも健康情報シリーズにはそうした資料も提出しているのだそうだ。ところが出来上がった冊子にはこの部分がまったく採用されていない。これで冊子を作った側は国の所要量しか認めないと言う姿勢でいることが明らかになった。しかし学者としてこれは認めがたいのは当然だろう。そのことが日本のビタミンCの最高権威の口から語られたのだ。まさに目から鱗である。

「葛西君、でかした。この連載はたいしたものだ」

たまたま事務所を訪れた渡辺先生が葛西博士を褒めた。怒られることはあっても、褒められることは珍しい。師匠の言葉に弟子はよほど嬉しかったのか、顔を真っ赤にして、照れている。私はすでにこの新聞の編集部に入って6年目を迎えていた。その間、葛西博士の仕事を見てきたが、薬事法に関連した記事以外では、これと言ってめぼしいものはなかった。しかしこの連載は素晴らしい仕事だと、私も認めざるを得なかった。

「社長賞ものだね」と編集長が言った。ところが後日、これが本当になった。記事を褒められることほど、記者として嬉しいことはない。

「それにお金が付いて来りゃあ、鬼に金棒、盗人に追い銭だ」と言うと、「それは例えがおかしい」と博士が言う。適当に思い浮かぶことを言ったのだから、変だと思うのは当たり前だが、とにかく良かったと言うことだ。袋を開けると、3万円入っていた。

「園田さん、けちっくさいねェ」と言うと、社長をそんなに悪く言うもんじゃないとかばう。そして1万円を取り出して、「飲みに行こうか」と言い出した。よほどご機嫌だったのだろう。博士からご馳走になったのはこれが最初で最後だから忘れ難い思い出だ。

連載はその後も順調に進んでいるようだった。こちらも負けてはいられない。というわけで遅まきながらローヤルゼリーの取材を開始した。健康食品のローヤルゼリーと言えば当時は訪問販売の毎日商事やナチュラルグループ、ジャパンローヤルゼリーなどが売っていた。たいがいが販売会社で、どうみても科学的な研究に詳しい人がいるようにも思えなかった。

「公取協に行ってみたら」と言ってくれたのは編集長だった。公取協とは全国ローヤルゼリー公正取引協議会が正式名だった。さっそく連絡して中央区の日本橋近くの事務所に行った。応対してくれたのは専務理事だった人で、出された名刺には吉池久守とあった。もとはナチュラルグループにいたらしいが、温厚で包容力のありそうな人だった。

かつて、ローヤルゼリーの原料の大半は台湾から輸入されていた。しかし経済発展とともに人件費の高騰し、原料価格が上がった。そこでこの頃には中国からの輸入が主流となっていた。広大な中国の産地から原料を集めて来なくてはならない。吉池さんはその事業に携わった。しかしこの頃の中国の地方には冷蔵庫もない状態だった。これがないと、せっかく採取したローヤルゼリーが茶色く変化する。これを褐変というが、劣化して使えなくなってしまう。これを抑えるためには、冷蔵が必要だった。

そんな話を聞いているうちに、「ところで今日は何の話…」と吉池さんが言い出した。

(ヘルスライフビジネス2021年8月15日号「私の故旧忘れ得べき」本紙主幹・木村忠明)

※第178回は1月27日(火)更新予定(毎週火曜日更新)

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