先輩記者の慧眼「健康食品は今以上に必要になる」(7)

2022年10月25日

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「今、会長の言ったことは違います」と隣にいた協会幹部が口を出した。会長の眉が吊り上った。明らかに不快そうな表情だった。ヤバイ!喧嘩が始まる。

日本健康食品製造事業協会の会見でのことだ。以前紹介した新橋の自然食レストランの2階の事務局が会場だった。当時、業界関係の新聞社は2社しかなかった。それに健康雑誌、薬系の新聞社が加わって5社ほどが来ていた。主催者は会長の渡辺正三郎さん、確か専務理事だったと思うが上田寛平さん、そして事務局長の加藤嘉昭さん、それにもう一人いたが、今では思い出せない。

会見で会長の話に割って入ったのが上田寛平さんだった。年の頃は60歳くらいで、大きな鼻が印象的だった。喜劇俳優の三木のり平に似た愛嬌ある顔つきをしている。しかし自己主張が結構きつい。仕舞には、幹部同士で口論になった。

あきれて聞いていると、あっけなく会見は終了した。記者席との質疑が始まったが、すぐにスリーピースのスーツを着た記者が手を挙げた。髪はやや長めだが七三にきちっと分けている。年の頃は30半ばであろうか、鋭い質問を投げかけている。その姿が颯爽としてかっこいい。あんな記者になりたいと駆け出しの私は思った。

会見が終って名刺交換すると、薬局新聞のベテラン記者で、名前は山本武道と書かれていた。その頃、医薬品の業界では「薬業時報」と「薬事日報」という2大紙が幅を利かせていた。しかしそれらの新聞は健康食品との接点が薄く、薬局やドラッグストアなどの流通企業に読まれている「薬局新聞」や「ドラッグトピックス」などの専門紙の方が健食業界と関係していた。この記者会見以降、山本さんとは様々な記者会見で会うようになった。私が出席するのはたいがい健康食品に関連したものなので、薬系の新聞記者が来ないような会見にも山本さんは来ている。「変わった人だ」と興味を持った。度々会うので相手も関心を持ったのだろう。ある記者会見の後、喫茶店でコ-ヒ-をご馳走になった。

大概の薬系の記者は健康食品を「キワモノ」と見ていることがありありとしていた。国の許可を受けている医薬品は権威があるが、健康食品は怪しげで胡散臭い。劣等感も手伝って、少なくともこちらからはそんな風に見られているように思っていた。薬局の取材でも薬剤師の多くが健康食品を蔑視しているように見えた。経営者がいうので仕方なしに売っているが、「本来ならばこんなもの売りたくはない」といった風で、事実口に出していう人もいた。薬業界の記者が同様の姿勢でいるのは似たような認識からだろいうと想像して、どうせこちらは怪しげな業界の専門紙だと開き直っていた。

ところが山本さんは違っていた。「日本はいずれ高齢化を迎える」という。高齢者というと65歳以上の人を言うが、この年齢のお年寄りが人口の7.1%~14%になると「高齢化社会」という。1970年にはすでに高齢者の人口は7.1%を超え、高齢化社会になっていた。この高齢化の進行と同時に、がん、心臓病、脳血管疾患などの生活習慣病が増加していた。こうした高齢化に伴う病気にならないため、健康づくりが今後ますます大事になる。

「健康食品は今以上に必要になる」

今にして思えば慧眼に違いない。一部の業界人の間では同様なことが言われていたが、そのことを薬業界の新聞記者から聞いたのは新鮮だった。

日本は以降も高齢化が進行し、1995年に14%を超え「高齢社会」になり、さらに2007年には21.5%と5人に1人が65歳以上の「超高齢社会」に突入、医療費、介護費、年金などの社会保障費だけでも年間100兆円を費やしている。「健康寿命延伸」が国の重要な政策になっている。しかしこの頃多くの人がそこうなることを想像だにしていなかったに違いない。

(ヘルスライフビジネス2014年7月15日号「私の故旧忘れ得べき」本紙主幹・木村忠明)

※第8回は11月1日(火)更新予定(毎週火曜日更新)