販促が目的で一般人が認知できれば商品広告(10)

2023年3月8日

プレスリリースが商品広告とされた処分の分析と検討

※「ヘルスライフビジネス」2022年9月1日号掲載の記事です。                        9月9日に消費者庁が公表した措置命令は、健康訴求広告の規制上での判断基準として参考にできると思われる。この事例では、宛名が「報道関係者各位」と表示されている自社ウェブ上に掲載されたプレスリリースと「ゆうメール」と表示されたダイレクトメールが、商品広告であると判断されたことになる。しかし、プレスリリースが商品広告として処分された例と、ウェブ上に掲載されたダイレクトメールが処分対象になった例を筆者は初めてみた。特に前者は、プレスリリースが商品広告と判断される基準になり重要である。前者に関し今回の事例を基に私見を述べる。

プレスリリースに関する規制基準

 電通刊行の『新広告用語事典』でのプレスリリースに関する記述を要約すると、次のようなる。

「企業や団体がその活動に関する情報をマスコミに提供するために配布する、発表内容を印刷した通信文書。新製品発表などのマーケティング活動や企業コミュニケーション活動の一環として行われている」

 このような文書が、健康訴求広告の規制上どのように判断されるかについての明確な例示は見当たらない。しかし、この文書に基づく新聞記事やテレビニュースなどが商品広告として規制されないことは自明だから、前提になる文書も規制対象外になると、一般には理解されているはずだ。

 だが、公表されておらず、噂レベルではあるが平成15年に新商品のニュースリリースの内容が不適切であると指導され、次のように記述が修正されたという事例がある。

「日本人の5人に1人が眠りについての悩みを持っていることが報告されている」「不規則な生活を送っている人、寝つきの悪い人、熟睡したい人にリラックスタイムを提案」⇒「多忙で不規則な生活を送っている方のために、おやすみ前のゆったりとしたリラクゼーションタイムを提案」

規制対象広告の判断に関する規制基準

 推測すると、修正前の表現は商品広告の表現であり、薬機法などに抵触すると判断されて、行政指導が行われ、それにより説明のないままに、プレスリリースの修正が行われたことになる。公表の事例に基づくものではないので、判断基準にはし難いとしても、プレスリリースが規制対象になったことの例としては参考にできる。

 薬機法や景表法の規制対象広告についての判断基準自体は、平成10年に例示されている。それによると、①商品の販売促進を意図して、②商品名などを紹介し、③一般消費者が容易に認知できる、という3要件をすべて満たしているもののみが、規制対象とされる。 

 この基準からすると、平成15年の事例は、プレスリリースが商品広告と判断されたことになるが、それを理由に摘発や行政処分といった表沙汰にはせず、関係者だけがわかる行政指導が行われたことになる。

9月9日公表の措置命令に関する分析と検討

 9月9日公表の措置命令では、処分対象になった表示には、自社ウェブサイトにおける「新型コロナウイルス“第6波”

に警戒を<感染>と<重症化>どちらも予防したい」といった表現が使われていたとされている。

 これだけであれば、ウェブ上の通常の商品広告に対する処分だったと思ってしまうが、よくみると対象になったのはウェブに掲載されたプレスリリースとダイレクトメールであった。そのためにプレスリリースが規制されるのかという疑問が生じることになったわけである。

 公表資料によると、処分はプレスリリースであることが問題にされたというよりも、それが一般消費者が容易に認知できるようにウェブに掲載されたことと、そこにコロナ禍の便乗商法のような表現のあったことが問題とされたのではないかと思われる。

 推測ではあるが、平成15年の例で問題になったプレスリリースは、一般消費者が認知できるものではなかったはずだ。だから、規制上の疑問が残る。しかし、今回の場合は一般消費者が認知できることに疑問はなく、商品販促の意図も否定できず商品紹介もあったことから、商品広告と判断されたことになる。

パブリシティなどに関する実務上の留意点

 健食販社が健食の新発売で、マスコミにプレスリリースを送ることは、パブリシティとして広く行われている。上述の2例から、この場合の実務上の留意点を、筆者は次のように考えている。

 新商品のプレスリリースでの記載に、規制上認められない効能効果や虚偽誇大な表現を行うことが可能か?

 商品広告でなければ可能なわけで、マスコミ各社だけが認知できるものならば規制対象外になるかという点で、平成15年の事例が問題になる。

 そこでは、一般消費者が認知できなくても商品広告として規制されたことが推測でき、マスコミへの送付だけなら規制される効能効果を使えるわけではないことになる。

 マスコミがプレスリリースに基づき新商品の効能効果を報道すれば、結局、一般消費者が認知することになり、総合すると規制対象広告の3要件に該当すると判断される可能性は否定できない。

これへの反論ができるとしても、行政側の判断を否定できるかというと、極めて疑問だ。実務上は、商品の説明と素材・原材料の説明は区分して行うべきだろう。

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