サプリが必要なのはビタミン大量投与のためだった(27)

2023年3月14日

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人の中にはやたらに影響されやすい人がいる。ブームに飛びつくタイプの人もそんな人だが、よくいるタイプだ。ゴルフの石川遼にぞっこん惚れ込んでいたが、ちょっと会わないうちに松山に乗り換え、サッカーが流行ったらすぐに本田だの香川だのと言い出す。しかししばらく経って合うと、話の中身はがらりと変わって、今度はテニスの錦織の話になっている。こうした人は女性に多いが、男性でも少なからずいる。

編集部の同僚はそんな男の一人で、なんにでも感化されやすい。しばらく前には郡司篤孝さんの講演会を取材に行ってこれに感化された。郡司さんは戦後添加物の販売に携わっていたが、この危険性に気づき、1963年(昭和43年)に「危険な食品」という本を出して以降、防腐剤や着色料に含まれる食品添加物の危険性を訴え、知られるようになっていた。

感化された同僚はそれ以来、着色料を使っているようなものを口にしなくなった。なのに不思議と菓子やカップめんの好きな男で、さも菓子は着色料を使ったような部分を削りとって食べている。
カップめんについては調味料のグルタミンによる中華料理症候群の話をして「できれば食べない方が良い」という。なのに「かん水は悪く言われるが、決して健康の害になるものじゃない」と聞きもしないのに言い訳をする。
さては隠れて食べているに違いないと思ったが、武士の情けで言うのを止めた。それなのに人がタラコのおにぎりを食べていると、赤い着色料ががんの原因になるとか、防腐剤が健康に悪いなどしきりとにうるさい。

「俺はがんになりたいんだョ!」と怒鳴ると、さすがそれ以降言わなくなった。

ところが今度は玄米菜食の先生の取材をしたらそれにかぶれた。「玄米を食べない人は人にあらず」といわんばかりだ。なるほどと思うところもあったので、玄米ではなく胚芽米を家では食べるようにした。すると無農薬じゃないと胚芽に農薬が貯まる。かえって危険なものを食べているとしつこい。頭にきて胚芽米をゴミ箱に捨てた。

そんな彼だから今度の本でもポーリング博士にハマった。ある日取材から帰ると、彼が茶色いビンを鞄から取り出した。まるで理科の実験で使うような薬品のビンのようだ。聞くとアスコルビン酸だという。つまりビタミンCの原末らしい。専門の店から1000円くらいで買ってきた。

「それどうするの~」と聞いたが、それには答えずに彼はスプーンを出してガバッとすくいあげて、口に運んだ。水を忘れていたのを思い出して。苦しそうに「水、水、水」と言う。面白いのでしばらく見ていたが、かわいそうになって、水を汲んでやった。

「ああ酸っぱい!」

大匙1杯は15g、小匙1杯5gだといわれている。彼は15g近いビタミンCを一気に飲み込んだことになる。ビタミンCはアスコルビン酸という酸なので、とにかく酸っぱい。この量を原末で摂るのはそれなりにしんどい。

この頃の日本人の1日必要量(栄養所要量)のビタミンCは成人で確か50mgだった。温州みかん1個には平均ビタミンCを35mg含むといわれている。10g摂るとしたら、約286個のみかんを食べなければならない。馬や牛でもあるまいし、こんなに摂れる訳がない。確かに錠剤が必要になるわけだ。一粒500㎎なら20粒、1000mgなら10粒で摂れる計算だ。

「だからサプリメントが必要なんだよ」と彼はいう。

そういわれてみると確かに説得力はある。それにしても通常の食事で摂れない量のビタミンが必要だとすると、栄養士の言う必要量はとんでもなく低い量になる。日本の栄養学は50年遅れていると言っていた渡辺先生の言葉を思い出した。

「そういえば渡辺先生に連絡は取ったの」と同僚がいう。実はすっかり忘れていた。すでに香港から帰って2か月が経っていた。

(ヘルスライフビジネス2015年5月15日号「私の故旧忘れ得べき」本紙主幹・木村忠明)

※第28回は3月21日(火)更新予定(毎週火曜日更新)

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