会員に対する統括会社の管理責任が問われた事件(11)

2023年4月5日

※「ヘルスライフビジネス」2022年11月1日号掲載の記事です。                   10月19日に愛知県警は、食欲抑制効果のある医薬品成分「シブトラミン」を含むゼリーをインターネットオークションで販売した薬機法違反容疑で、ベトナム国籍の女を逮捕したが、広告表現に関する事件ではない。他に広告表現に関する事件の情報は見当たらないので、今回は10月14日に消費者庁が公表した日本アムウェイ合同会社への行政処分について解説する。これは昨年末に同社の会員がSNSを使い違法な勧誘を行った容疑で京都府警に摘発された事件に関連する処分である。医薬品的な標ぼうに関する事件ではないが、取締りの動向を知る上で参考になる。                     

SNSの悪用で処分された連鎖統括会社の分析と検討

統括会社に対する今回の処分の内容

 今回処分された「日本アムウェイ合同会社(以下、甲社)」は、会員数が60万人を越え、昨年の売上高は約990億円と言われる連鎖販売取引の統括会社である。

 今回、会員の一部による次のような特商法に違反する勧誘によって、甲社は処分された。

➀甲社の名称や勧誘目的を明示しない勧誘

② 公衆の出入りしない場所における勧誘

③ 迷惑勧誘

 具体的には、例えば、次のような勧誘が行われていた旨が公表されており、要約して紹介する。

 甲社の会員である勧誘者Aは、SNSを通じて知り合ったCを、通話機能を使って勧誘が目的であることを告げずに食事に誘い、食事後に甲社や会員しか出入りしない建物に連れて行った。

 そこでAは、同じ勧誘者BをCに引き合わせ、BがCにフェイスマッサージを行い、帰りにAはCに交際を申し込んだ

 翌日、再度その建物を訪れたCを、AはBの部屋に連れて行きマッサージの後で、甲社の化粧品購入のための入会を勧誘した。Cは勧誘を断ったが、Aは執拗に勧誘を続け、恐怖を感じたCは、入会を承諾した。

甲社会員の摘発事件と今回の処分との比較

 今回の処分は、SNSを使った連鎖販売の勧誘が対象になっている。この点では、昨年末に同じ甲社の会員が京都府警から摘発された事件と共通している。それなのに、刑事処分と行政処分とに異なった理由は次のように考えられる。

 昨年末の摘発は、京都府の公務員であった甲社の男性会員の、SNSを使って知り合った女性への違法な勧誘に対するものである。その摘発理由は、女性の期待が男性と交際することであったのに、男性がそれを悪用して経済的な負担が伴う入会を勧誘したためと思われる。被害者の女性が警察に相談し、女性の処罰感情が強いことから、府警は摘発可能と判断した旨が推測できる。甲社も捜査の対象になったが、会員の犯行への直接の関与はないと判断されたようだ。

 しかし、甲社はその際に、SNSを悪用した勧誘に関する会員の管理について強く警告されたはずである。当然、それは行政側にも連絡され、監視が強化されていたと推測できる。今回の処分には、そのような背景があったといえる。

特商法の取締りでの優先事案の分析と検討

 永続して営業する店舗では、顧客が騙されたり、誤解して不利益を受ける危険性は、通常は少ない。しかし、無店舗販売である訪問販売や電話勧誘販売などでは、消費者が被害を受ける危険性が高いというのが、特商法がこれらを規制している理由とされている。

 高齢者宅への家屋修理や物品の訪問販売が優先して取締りの対象とされているのは、高齢者の被害防止が目的である。

 SNSの悪用に対する取締りも、無店舗販売と同じく、利用者が騙されたり、誤解したりして被害を受けることの防止のためだと言える。

 連鎖販売取引への理解が不足している若年者などに、交際など別の目的を装いながら、経済的負担を伴う入会を勧誘することも、取締りの最優先事案であることは間違いない。これは、高齢者への訪問販売が取締りの最優先事案であること同じである。その中でも、SNSなどを悪用し、騙して勧誘させる行為が特に悪質とされることは言うまでもない。

2つの事件に関する連鎖販売実務での留意点

 昨年末の摘発では、SNSを悪用して勧誘した甲社の会員個人の刑事責任が問われた。それに対して今回の処分は、会員個人の責任ではなく、会員を統括する甲社の責任が問われている。

 消費者庁の調査で、甲社がSNSを悪用した違法な勧誘の指示や示唆をしていた事実が判明していたのであれば、甲社の責任は当然、会員の責任に優先して問われる。

 しかし、そのような事実がなかったとしても、甲社の管理責任が問われて、処分されたはずである。上述の通り、甲社に管理責任のあることは、昨年末の摘発において甲社が認識しなければならなかったことであった。従って、会員個人の責任である旨の抗弁の通るわけがなかった。

 だが、連鎖販売における実務において、この管理、特に、SNSの悪用などに関する管理は容易ではない。そのために、このような事件が続いて発生することを筆者は危惧している。

 米国が起源の連鎖販売取引の、日本での評価はまだ低い。これらの不祥事件の度に、それがより低下し、その結果、無理な勧誘が誘発されているように筆者には見える。このような悪循環を断つことが強く求められていると思われる。

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