大ベストセラー作家・今村光一〝大先生〟に出会う(34)

2023年4月25日

バックナンバーはこちら

この本は編集部でもとても評判になった。といっても、私のほかに葛西博士と編集長の3人しかいないが、この本については全員がまじめに読んだようだ。しかも何を思ったか、編集長が著者の今村光一にインタビューしたいと言い出した。その頃、すでにこの本はベストセラーになっていた。

「会ってくれますかね」と、思わず口を突いて出た。そんな大先生がこんな学生新聞に毛の生えたような専門紙の取材を受けてくれるわけがないというのが、我々の共通した思いだった。というのも、そのころある大学の先生に取材を申し込んで、にべなく断られた苦い経験があった。

「健康食品の新聞だって!健康食品ってナニ?」というと、ちょっと忙しいので、と受話器の向こうでガチャリと電話を切る音がした。チキショウ!今度どこかで会ったらタダじゃおかないぞ!と思ったが、後の祭りで、おそらくもう会うことはないと思うと情けなくなった。

「きっとそうなりますよ」というと、「やってみないと分からない」と編集長は強がって見せる。「まあ、ダメもとだな」と博士。それで編集長が連絡を取ることになった。

翌週、取材から帰ってきた編集長は写真を見せながら興奮気味に今村光一のことを語り始めた。

「とにかく変わった人だ」確かに、写真に写った〝大先生〟は変わっている、着ているものは上下ともにジャージで、椅子の上に胡坐をかいている。足は裸足だ。まるで牢名主である。顔は細面と言えば聞こえはいいが、ネズミ系の顔で、悪戯っ子のような笑みを浮かべている。髪の毛は白髪で、かなりの歳のようだ。

「ところがまだ45才だそうだ」と聞いて「え~ッ」と我々は驚いた。とても見えない。早稲田大学英文科中退の翻訳家でジャーナリストというから、もう少し学者のような人かと思っていた。イメージからはかなりかけ離れている。なんだか変人のおじさんのようだ。

「この写真、使うんですか?」というと、編集長は「うん・・・」とため息をついた。結局、後日写真とインタビュー記事は新聞に掲載された。

話題のベストセラーの著者だけにこの記事は業界関係者の間で少なからず話題になった。取材先で「あの記事読んだよ」とよく声をかけられた。そうしているうちに、編集長がまた変な提案をした。このネズミおやじ、話はかなり面白いらしい。それで「講演をお願いしては」と言い出した。

今はなくなったが、東京・御茶ノ水の駿河台に出版社で知られる主婦の友の本社があった。このビルの中のセミナールームで、編集部主催の今村光一の講演会が開かれた。ベストセラーの著者の話を聞こうと、会場は健康自然食品の業者で満杯になった。当時、主婦の友では「私の健康」という健康雑誌を出していたが、この編集部の笠さんも聞きに来ていた記憶がある。

「現代病は誤った食事が引き起こす〝食源病〟だった、というのが、マクガバンレポートの結論です」
しわしわのポロシャツに膝の出たズボン。しかもズボンのチャックが開いていた。しかし、この風采は上がらない45才の今村光一からは、四方八方にオーラが出まくっていた。

初めて聞く今村節は明快で分かりやすかった。ただし、残念なことに講演は残り時間をまだ40分残して終わってしまった。

「終わっちゃったよ」の一言に我々は泡を食った。しかし、これは今村光一との長い付き合いの始まりになるとは、この時はまだ知らなかった。

(ヘルスライフビジネス2015年9月1日号「私の故旧忘れ得べき」本紙主幹・木村忠明)

※第35回は5月2日(火)更新予定(毎週火曜日更新)

関連記事