「えらいこっちゃ」晴海で展示会をやることになった(63)

2023年11月14日

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「それが、晴海でやることになったようだよ」と葛西博士が言い出した。
「エッ! 晴海だって!」これは私の驚きの声。
「エ! 冗談でしょ!」これは事務の宇賀神さんの驚きの声。とにかく驚いた。

今はないので解説すると、東京・晴海の東京国際見本市会場は、築地市場の移転で問題となっている豊洲と月島に挟まれた東京湾の埋め立て地に存在した。今ではお台場の跡地に出来た東京ビッグサイトや有楽町の東京国際フォーラムが定番だが、当時は展示会といえば晴海の東京国際見本市会場と相場は決まっていた。

この展示場では、今も続いている国内最大級の食に関する展示会「フーデックス」などか行われていたが、健康食品の展示会は全くなかった。

それもそのはず。東京国際見本市会場は戦前に万国博覧会の予定地だった場所で、東京モーターショーなどの巨大な展示会を行う会場だった。当時の健康食品の展示というと大半が百貨店の催事で、規模が大きいものでもドラッグストアの問屋かボランタリーチェーンの商談会くらいだった。それも一部の企業が参加する程度で、業界がまとまってどこかで展示会をすることはなかった。

ましてや晴海などという大それたところで健康食品を展示しようなどと考える輩は日本中探してもどこにもいなかったに違いない。ところが身近に2名だけはいたようだ。

編集長が帰ってくるとそのことが本当だということが分かった。「社長と2人で晴海に行って決めてきた」という。無茶な話だと言って抵抗したが、契約してきてしまったというのだから、後の祭りだ。

「でも平気だよ。晴海で一番小さな会場でやるんだから」という。小さい会場と言って、どの程度なのかわからない。晴海には真ん中の道路を挟んで7つの展示館が並んでいた。そのうち一番小さいのが南館というらしい。この南館のしかも1階だけを使ってやるという。

それで少し安心したが、このスペースを120のコマに仕切って、展示する企業を募集するという。しかも展示会の会期は3月末だ。もうⅪ月末だから企業を募集するにも時間がない。それでまた不安になった。1コマ27万円で売ることになった。誰が売るのかといったら我々しかしない。記者兼営業で3名だから話は簡単だ。一人当たり40コマで1080万円を売り上げればよい計算である。

そういうと葛西博士は「ヒョエー!」と奇声を発した。「えらいこっちゃ」といったような意味なのだろう。彼は漫画が好きなのでその影響だろうが、こういうところがどこか子供じみていている。ふざけている場合ではない。うまくいかなければ会社は大変なことになる。

「だめなら夜逃げすればいいよ」さすが博士である。
とにかくいやいやながら出展する会社を探すことになった。

「それは、いいじゃない」帰りに全日本健康自然食品協会の事務局をのぞいた。

事務局次長の加藤さんにいうと、いやに乗り気だ。夕方でもあり飲み屋に行こうということになった。当然、加藤さんの奢りだ。席に着くと、加藤さんはご機嫌だった。というのも晴海で展示会を開くというのは産業が世の中に認められたという意味があるからだという。確かにそうかもしれないとも思うが、集めるのはこちらだ。

人の苦労も知らないで、いい気なものだと思いながら、熱燗を口にした。

(ヘルスライフビジネス2016年11月15日号「私の故旧忘れ得べき」本紙主幹・木村忠明)

※第64回は11月21日(火)更新予定(毎週火曜日更新)