流行るとすぐに偽物が出回る台湾の健食事情(86)

2024年4月23日

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台北の華西街に蛇を食べさせる店が何軒か連なる場所がある。観光名所だから当然のようにそこに連れて行かれた。アーケードになった商店街で、路の両側に様々な店が並んでいる。その何軒かが蛇を食べさせるそうだ。

人だかりが出来ている店の前で足を止めた。店の前に置かれ台に店員が一人立っている。台の下から一匹の蛇を取り出すと、上からつるしたフックに蛇の顎をひっかけた。身体を片手で尻尾の方をつかむと、右手に持った包丁でいとも簡単に腹を裂いた。「オーッ」と驚きとも、ため息とも分からない声が人だかりの中から漏れた。

店の中を見るとまばらに幾人かの客が見える。蛇料理に舌鼓を打っているのだろう。

「入る?」と佐藤さんがいう。「勘弁してください」と岩澤君。私とてこれはいけない。日本人客はたいがい同じこと言うそうだ。しばらく行くと店先に生の魚やエビ、貝だけでなく肉なども台に並べた店が軒を連ねていた。お客はその台のところで、食べたい魚を決めて、店の中で料理してもらうのだそうだ。これも台湾名物の海鮮屋台だそうだ。こちらなら食べられそうなので入ることにした。

何を食べたのか、ほとんど覚えていない。ただ最初にひまわりの種とかぼちゃの種が突き出しに出たのと、ウナギが輪切りで皿の上に乗っていたのだけは覚えている。

台湾ビールを飲みながら佐藤さんが台湾の健康食品事情を話してくれた。佐藤さんの勤める海洋牧場は静岡県の焼津にあった。駿河湾に面した漁港だが、この湾の深海で摂れる深海ざめの肝臓から搾った油を売っていた。健康食品ではスクワレンと呼ばれ、ソフトカプセルに詰めて売っていた。酸化が早いためで、これは健康食品にソフトカプセルが使われた最初だと思う。一方、酸化を防ぐため水素添加したものはスクワランといわれ、高級化粧品の素材になっていた。

深海ざめの健康食品ははこの頃、台湾でもようやく売れるようになっていたが、こうなるとすぐ偽物が出回るので心配だと佐藤さんはいう。というのも米国がプロテインブームで、まざまざと見てきたからだ。プロテインは日本でもダイエットで売れていた。台湾でもちょっとしたブームになって、テレビや雑誌で取り上げられるというになった。途端に偽物が巷に氾濫した。

「台湾人は儲かると思うとすぐにその偽物を作る」

これは健康食品以外でも同じだが、プロテインが売れるとすぐに外国製に見せかけた偽物が大量に出回った。中には小麦粉を味付けしただけでプロテインと称して売るようなところも出てきた。衛生的にも問題のある製品が多く、自宅の物置のようなところも平気で作ってしまうそうだ。

「目に余るので国も動き出した」という。取り締まりが厳しくなると、すぐにそうした業者は雲散霧消する。

「とにかくこの国の人は他人を信じない」信じるのはお金だけということらしい。中国との間ではまだ戦争状態で、国自体が何時どうなるか分からない。日本とは置かれた事情がまるで違うのだ。

ほどほどに酔って店を出た。路地を見ると、人だかりしている。

「賭博だよ」と佐藤さん。時々歓声が上がるのは、賭けに勝ったときなのかもしれない。

その先に行ってみようというので付いて行った。驚いたことに路地の奥にはピンクのライトに照らさせて、店頭に若い女性がズラリと薄着で並んでいた。この頃は台湾ではまだ公娼制度があった。

(ヘルスライフビジネス2017年11月1日号「私の故旧忘れ得べき」本紙主幹・木村忠明)

※第87回は4月30日(火)更新予定(毎週火曜日更新)

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