【規制】暗示表現と打ち消し表示への判断(38)

2024年6月10日

※「ヘルスライフビジネス」2024年1月15日号掲載の記事です。                        前号で出来なかった昨年12月19日公表の機能性表示食品(キノウ)広告への措置命令の解説を、今回するつもりでいた。しかし、12月7日に消費者団体訴訟に関して重要な控訴審判決が出ており、今回はこの解説を優先することにした。これは令和2年に消費者団体がインシップ社の一般健食「ノコギリヤシエキス」広告の差止めを求めた訴訟について、被告の勝訴を認めた令和4年の岡山地裁の第一審判決を、広島高裁が支持したものである。原告の主張は消費者庁の規制基準に基づいているはずで、それが否定されたことになる。それについて筆者の見解を述べたい。

暗示表現と体験談の打消し表示に関する地・高裁の判断

効果のない旨の立証責任は原告にあるとされたこの判決は行政執行に影響しないと思われる

広告の差止め請求に対する岡山地裁の結論

 昨年12月7日に広島高裁が申し渡した控訴審の判決は、岡山の適格消費者団体がインシップ社(I社)のノコギリヤシが素材の一般健食広告の差止めを求めた訴訟で、令和4年9月20日に岡山地裁が出した原告の請求を退ける判決に関するものである。

 高裁が地裁の判決への同団体の控訴を棄却したことで、地裁の判断を高裁が認めたことになる。その地裁の判断の結論は、次のようなものである。

 同団体の請求の概要は、I社の広告が「中高年男性のスッキリしない悩みに」などと強調しているのは頻尿改善という医薬品的効能効果の表示に当たり、景表法の優良誤認表示(以下、不当表示)になる。またノコギリヤシ素材に関する否定的な研究があるなど効果の根拠がないので、広告を止めさせるべきだというものだった。

 これに対し地裁は、この広告は医薬品と誤認させるとまでは言えず、原告の主張は認められないとして、同団体の請求を退けたわけである。

岡山地裁が景表法に反しないとした理由

 この地裁の判断の主な理由を整理・要約すると次のようになる。

① 広告には具体的な病名や症状、効果などの記載がない。

② 体験談にも効果の具体的記載がなく、抽象的記載に留まっている。

③ 体験談に「個人の感想で効能効果を保証しない」旨の脚注がある。

④ 食品である旨だけで医薬品の記載がない。

⑤ 効果の否定的な研究もあるが肯定的な研究もあり、否定的な研究があるという原告の主張だけでは、個人差のある一定程度の頻尿改善効果の可能性は否定できない。

⑥ この広告は効果の可能性を表示しているに過ぎないから、景表法の不当表示に当たるとまでは言えない

 以上の地裁の判断は、筆者の理解では、厚労省と消費者庁が例示してきた一般健食広告規制の判断基準と異なる。

 そもそも「中高年男性のスッキリしない悩みに」のような表現は、頻尿改善を標ぼうできない

広告主が工夫する暗示表現であり、明示表現と意味が同じと判断できれば同様に規制するというのが、一貫した規制上の判断基準であった。

 地裁の判決だけでは、筆者には地裁の判断が、このような規制基準を批判・否定する意図があるのかどうか、よくわからなかった。

効能効果の暗示に関する地・高裁の判断

 それが、高裁の判決を読んで、地裁と高裁の判断の意図が理解できた。それに関する高裁の判断を整理・要約すると次のようになる。

① 景表法は、消費者庁長官が広告主に効果の根拠資料を求め、不当表示についての判断を行うことを規定している。

② しかし、同団体が広告主に効果の根拠資料の提出を要求できる法的根拠はないので、広告の差止め請求を行う場合には、効果のない旨の立証を自ら行うべきである。

③ それなのに同団体は、効果のない旨の立証をしていない。

④ 逆に、地裁の判断のように、I社の製品に一定程度の頻尿改善効果が認められる可能性は否定できない。

 筆者の理解では、同団体のI社の広告が不当表示に当たるという判断は、同庁などの規制基準に基づいていたはずである。同庁が不当表示と判断するはずだから不当表示になると考えたのではないだろうか。

地・高裁の判断に関する実務上の留意点

 しかし、高裁の判決は、同団体には効果のないことの立証責任があり、同庁と法的な立場が異なると指摘している。

これを筆者が読み替えると、同庁が排除命令を出す場合と同団体の差止め訴訟は法的根拠が異なるのだから、前者であれば不当表示になるが、後者ではならないということになる。

つまり、筆者には地・高裁が暗示表現に関する同庁の規制基準を批判・否定しているのではなく、なぜ措置命令でなく差止め訴訟だったのかを問題にしているように思えるわけである。

 そう考えると、だいにち堂(D社)のアスタキサンチンが素材の一般健食の広告表現である「ボンヤリ・にごった感じに」が、優良誤認表示に当たると消費者庁が判断し、最高裁がそれを認めた判例と、今回の地・高裁の判断は矛盾しないことになる。

 地・高裁は、同団体の広告差止め請求の法的根拠を問題にしただけで、行政上の規制基準を問題にしたわけではない。従って、行政執行に影響が出るとは思えない。同団体が上告して最高裁の判断がどうであれ、暗示表現などに関する規制基準が変わることはありえないように思える。


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