アデル・デービスの本が出た(147)

2025年6月24日

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3月に渡辺先生の本が出た。米国の栄養療法家のアデル・デービスの本『レッツ・ゲット・ウエル』を訳したものだった。このタイトルは『健康家族新書 Let`s Get Well 健康への道』だった。贈呈は1冊しかないので、私の手元に来たのは一月くらい経ってからだった。

本を手にするとすぐに思い出した。この著者アデル・デービスのことを初めて聞いたのは確か香港のホテルでのことだった。香港で行われた健康食品の展示会に招待された。そこで渡辺先生とホテルの部屋が同室になった。そのとき聞いた名前だと記憶していた。

それからちょうど2年経った昨年の2月に、毎月送ってくれる渡辺先生の手書きの『MWレポート』に、このデービスの本の翻訳と解説が載り始めた。連載は8月まで6回続いて、何度か先生は我々の勉強会でその内容について話した。そのことは確かに覚えている。しかし肝心の中身についてはうろ覚えだった。

それ以降も渡辺先生が「やはり本当のバイブルは『Let`s get well』だね」と言うのを何度か聞いた記憶がある。数年前にアール・ミンデルの『ビタミンバイブル』が小学館から出版され、ベストセラーになっていた。それより、『Let`s Get Well』の方が素晴らしいという意味でそういったのだろう。

そのことは昨年初めて行った米国ツアーでも知った。ワシントンを回っていた時のことだ。地元の旅行会社の案内で自然食品の専門店を訪ねた。すると店主が親切に応対してくれた。ちょうど翌日はニューオリンズで行われる展示会を訪れる予定になっていた。そのことを告げると、店主は展示会を主催する米国栄養食品協会(NNFA)の理事と明かした。

「それではまたそこで会いましょう」と店を出ようとすると、「ちょっと待って」という。そして何冊もの本を抱えてきた。

「大変素晴らしい本だ。皆さんにプレゼントします」と言って、それぞれに一冊ずつ手渡してくれた。この時のブルーの表紙のペーパーバックの本が『Let`s Get Well』だった。日本で言えば文庫本か新書版だが、普及版が出るほど売れている本なのかと思った。

それで帰国後に調べてみると、なるほどと納得した。彼女が生まれたのは西暦1904年である。米国の中西部でシカゴのあるイリノイ州の片田舎の農場主の5人姉妹の末娘として生まれた。日本で日露戦争が起こった明治37年である。

母は生後すぐに脳卒中が原因で亡くなった。それで叔母の家族に育てられ、農場を手伝いながら学校に通った。パデュー大学では家政学を学び、1912年に初めて栄養学科を設けたカルフォルニア大学バークレー校に編入して学位を得ている。栄養学に興味を持ったのは母の病死や自身の子供の頃の虚弱だった体験もあったのだろう。卒業するとニューヨークへ移り、病院や学校、公共機関などで栄養士を務めながらコロンビア大学の大学院に通っている。

その後ロサンゼルスに移り、南カルフォルニア大学に通い修士号を取った後に、栄養のコンサルタントを始めている。医師から紹介された患者の栄養指導などを行い、35年にわたり2万人の患者に栄養療法を施した。この経験をもとに出筆活動をはじめ、8冊の本を出版した。

その彼女の仕事のいわば集大成が1965年に出したこの『レッツ・ゲット・ウエル』ということになる。それらの本はなんと1000万冊の売り上げを記録したというから、今更ながら驚かされる。しかしプロフィールは知ったが、本の中身を読むほど英語は達者ではない。すると先生が本にするようだという話が伝わって来た。

これがようやく世に出たのだ。それで我々が主催して出版記念の講演会を開くこうと言うことになった。さっそく社内で誰が担当するかということになった。これは簡単だった。一番弟子を自認する葛西博士だとすんなり決まった。

これで私たちは…、いや少なくとも私はほっとした。まだ本を読んでいなかった。もちろん全く読んでいなかったわけではない。少しは読んでいたが、何しろ長い。200頁もある本が2冊、箱に収まっている。いくら何でもこれをすぐに読み終えるわけにはいかない。しかも物には順番がある。他にも読まなければならない本はあるのだ。

葛西博士が渡辺先生のご自宅に打ち合わせに行くことになった。と思っていたが、後日取材から帰ると、会議室に渡辺先生が来ていた。事務所に用事があって来たので、ついでに講演会の打ち合わせをやっているという。逃げようと思ったら気付かれた。ちょっと来なさいという。仕方なしに会議机の端の椅子に座った。するともっとこちらに来いと手招きされた。そして一番聞かれたくないことを聞かれた。

「木村君、本読んだか」

あちゃァ!である。

(ヘルスライフビジネス2020年5月15日号「私の故旧忘れ得べき」本紙主幹・木村忠明)

※第148回は7月1日(火)更新予定(毎週火曜日更新)

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