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エビ、カニの腐臭漂う漁師の波止場(164)
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サンフランシスコの夏はやたらに日本人が多い。例えば横断歩道に立つと、向こう側で信号待ちする人の半分くらいが日本人に見えるほどだ。有名な観光地のフィッシャーマンズワーフならばなおさらである。夏休みなのだろう、若い女性の姿が目立つ。
ケーブルカーを降りて、港のレストラン街に向かって歩いて行くと、信号で立ち止まった。すると横断歩道の向かい側に3人組の女性に目が留まった。中の一人が知り合いに似ていると思ったのだ。するとあちらも私に気付いたようだ。
信号が変わると近づいてきて、「木村さんですよね?」と言う。「やっぱりそうか」と言うと、ニコニコしながら「驚いた」と言って一緒に歩いていた二人を振り返り、「テニス仲間」と私を紹介した。聞くと、「夏休み!」だと言う。OLは優雅なものだ。
「木村さんは?」と聞くので「仕事」と言うと、「そうなんだ…」と意外そうな顔つき。そういえば仕事の話をしたことがなかった。それほど親しいわけでもない。
「おい!木村君行くぞ」と渡り切っていた編集長が声を掛けた。
「どこのホテル?」と彼女に聞くと、「シェラトンです」。「夕方に電話するよ」と言うと、手を挙げて分かれた。
この頃、私は血圧がやや高かった。それが定期健診で指摘された。医者は原因を見つけて改善しなければならないと言う。聞くと高血圧の原因は、酒の飲み過ぎ、塩分の摂り過ぎ、ストレスの多い生活、肥満、運動不足、過労、生活の乱れなどだという。
「このうちどれが当てはまるか」と医者が聞く。考えたが、全部だった。するとあきれ顔で、出来ることからやれという。酒飲みは味の濃いものを好む。だから酒と塩分は切り離せない。夜遅くまで飲むので生活は乱れる。それで寝不足になってストレスは減らない。必然的に肥満になる。つまり私の高血圧の元は酒のようだ。
ただし「酒を止めるのは無理でしょう」と医者も分かっている。それで運動から始めることにした。たまたま通勤列車の額面広告に西武グループのテニススクールの宣伝が出ていた。そこに綺麗な女性がラケットを振っている写真が載っていた。それで西武球場の脇にあるスクールに通うことにした。女性に知り合う期待もあったからだが、彼女はそのスクールでは目立つ方だった。
とにかく彼女たちと別れて、先生の後に付いて行った。すると渡辺先生がカニの看板がかかったレストランのまで立ち止まって、「この店でいいだろう」と言う。編集長と葛西博士は吸い込まれるように店に入って行く。仕方なしに私もその後に続いた。
席に着くとウェイターがメニューを持って来て、「ロブスターが美味しいです」と日本語で愛嬌を振りまいた。高いもの食べれば、チップが多くなる。
「それじゃあ、ロブスターにしたら」と渡辺先生が勧める。エビ、カニ好きな編集長と葛西博士は喜んで注文した。何と言ってもメニューの中でも一番高い。「木村君もどう」と聞かれたが、エビ、カニはダメだ。すると「アレルギーか」と聞かれた。
「臭いがダメです」と言うと、怪訝な顔をしている。エビやカニが好きな人には良い「匂い」に感じるのだろう。しかたがないので私には腐ったような臭いがするというと、編集長が「そんな言い方は先生に失礼だ」と怒った。確かにご馳走になるのに失礼だ。すると「まあ、まあ、怒るな」と渡辺先生。人には好みがあると言ってその場を取り繕ってくれた。
それで私はヒラメ料理にした。料理が並ぶと編集長も葛西博士も盛んに美味しいを連発した。先生はカニを食べていたが、水っぽいと言う。あまり美味しくなさそうだ。しばらくすると、先生のススメでロブスターを手に記念写真を撮り始めた。そんなに美味しいならちょっと食べてみようという気になった。切れ端をもらって口に入れたが、しかしゴムみたいな食感で美味くなかった。「これが美味しいんですか?」と言うと、「失礼だなあ。君には食べ物の味は分からない」と編集長に言われた。
(ヘルスライフビジネス2021年2月1日号「私の故旧忘れ得べき」本紙主幹・木村忠明)