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健康食品対策室長には医系技官が就いた(168)
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厚生省から帰って来た葛西博士は浮かぬ顔で言う。
「いったい何をするつもりだろう」
行ってみると、驚いたことがもう一つあった。食品衛生課が食品保健課に変わっていたのだ。そしてその隣に健康食品対策室というのが出来ていた。
「対策室って言ったって、たった3人しかいなかった」と言う。ただし対策室長とは名刺交換はして来たといって、名刺を机の上に出した。
「松澤さんというらしい」
そんなことは見れば分かる。「それ以上は聞けなかった」と博士は言う。名刺交換したのだから、一言二言話す時間はあるだろうと編集長は不満そうだ。しかし室長は忙しそうで、聞けなかったと言う。
「それですごすご引き下がってきたのか」と編集長は手厳しい。駆け出しの記者じゃあるまいし、と言うことだ。しかしとにかく博士は引き下がってきたので、それ以外の情報はなかった。ただし後日にインタビューしたいということは伝えたと言う。すると松澤さんから「電話をくれ」という返事があった。つまりアポイントを取れば取材は了解だと言うことだ。しかしそれまで待たなければならないとは悠長な話だ。
取材に回ると業界ではその話でもちきりだった。杉並区井荻にある問屋の森谷健康食品にギフト商戦の取材に行った。ギフトは7月初旬から始まり、沖縄などの遅い地域だと8月半ばまで続く。この頃、創健社の紅花油「べに花一番」が売れ筋商品だった。商戦も半ばを過ぎて、ほぼ結果も出ているはずなので取材の頃合いだった。広報担当の瀬部さんに一通りの取材を終えた。すると瀬部さんの方から言い出した。
「なんだか、厚生省に健康食品の担当部署ができたようだね」
それで誰から聞いたのか聞くと、社長の森谷さんだと言う。だとすると、森谷さんもよく知らないということになる。しかし我々も何も知らないのだ。
「さあ…」と言うと、「また取り締まりを厳しくしようっというんじゃないだろね」と言う。誰もがそう思う。とにかく今まで役所が動くとろくなことはない。決まって取り締まりである。すると待ってましたとばかりにテレビはニュースやワイドショーでこれを流し、新聞や雑誌は書き立てる。当然、売り上げに影響しないわけがない。森谷健康食品は有名デパートに健康食品のテナントを出しているから、この影響をもろに受ける。これが長年続いて来たお決まりのパターンだ。
翌日に協会団体の全日本健康自然食品協会で会合があった。その取材で市ヶ谷の事務局へ行った。帰り際に中村理事長を捕まえて聞いてみた。中村さんは今日挨拶に行ってきたと言う。他にも人がいたせいか、詳しくは聞けなかった。しかし最後に「決して悪い話ではないようだよ」と言った。
さらに取材は続く。
数日後に日本製粉の上川部長に会った。さっそくその話をすると、ニコッと微笑んで、「対策室長の松澤さんは医者だそうだ」と言い出した。その時には意味が分からなかったが、調べてみると、なるほどと思った。
大学の後輩が運輸省にいた。唯一の官庁の伝手だった。夕食で釣って話を聞いた。大学時代の井上君は可愛いお兄ちゃんだったが、スーツ姿の彼はだいぶ役人らしくなっていた。「運輸省とは違いので、ちょっと調べてみます」と言って別れた。
彼によると、どこの役所にも職員は事務官と技官がいるそうだ。いわゆる東京大学から国家公務員試験上級試験(現在は総合職試験)を受けて官庁に採用され、最終的には事務次官を目指す。これはいわゆるキャリア組で事務官に当たる。しかし技官は普通ノンキャリア組で出世しても課長止まりだ。しかし厚生省の医系技官は違うそうだ。キャリアに準ずる扱いを受けるので、局長までなれるという。
つまり今度の室長は厚生省のキャリア組の医系技官ということになる。そうなると健康食品対策室は決して軽い部署ではないということだ。
(ヘルスライフビジネス2021年4月1日号「私の故旧忘れ得べき」本紙主幹・木村忠明)