滋養強壮効果しかなかった(178)

2026年1月27日

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連載の趣旨を伝え、そのためにローヤルゼリーの研究データが欲しいと言うと、「なかなか難しい」と言う。そして吉池さんはローヤルゼリーがなぜ健康食品になったかという経緯を話し出した。

ローヤルゼリーの歴史は古代ギリシアにまで遡る。ギリシア人はオリンポスの神々に不死を与えた蜜にローヤルゼリーが含まれていると信じていた。この頃には蜂蜜、花粉、ローヤルゼリーは食べられていたのだ。さらにアリストテレスは女王蜂を研究して、体力と知力の向上に役立つとして、学校の朝食に取り入れていたとも言う。美容では古代エジプトのクレオパラが美しさの秘密として食べていたようだ。さらに中医学では古くから蜂乳、蜂王浆といって体力増強や老化防止に使っていた。これをローヤルゼリーと命名したのはフランス人の科学者だそうだ。

「これが一躍有名になった事件が起きた」

1958年にイタリアのローマで開かれた世界養蜂会議でことだと言う。この席にローマ法王ビオ12世が出席してスピーチをした。話の中身はミツバチに感謝するということだった。理由は自分の命がローヤルゼリーで救われたからだ。

80歳にならんとする法皇は肺炎で死の淵にいた。主治医のガレアリー・リシー博士は出来うる限りの治療を施した。しかしそれでも回復せず、万策尽きてローヤルゼリーを投与した。すると病状は徐々に改善して、元気な状態にまで回復した。このことはドイツで開かれた国際学会で報告され、有識者に注目されたと言う。

ローマ法皇は13億人のカトリック教会の頂点に立っていた。だからこのニュースがあっと言う間に世界を駆け巡った。まさにローヤルゼリーが不老長寿の妙薬として注目を集めたわけだ。そして翌年には週刊朝日がこの話題を取り上げて日本でも評判となった。

「研究が始まったのはそれ以降だよ」と言う。

それでは研究データはあるでしょう言うと、吉池さんは困った顔をした。どうも手元にないようだ。しかし調べてみることは約束してくれた。「難しいよ」と言われたことが、取材を勧める間に分かってきた。

その後も心当たりに当たってみたが、めぼしいものはなかった。ただし吉池さんから新潟大学の先生の論文らしきものが送られてきた。新潟大学医学部の九嶋勝司教授の論文だった。ウイーンで行われた国際婦人科学会で発表したもので、女性の更年期障害は中枢神経の老化によるが、それにローヤルゼリーが効くかもしれないという内容のものだった。ただし残念なことにネズミを使った動物実験で、臨床試験ではなかった。念のため新潟大学にも連絡したが、九嶋教授はすでに学長を退職した後だった。さらに追跡すればよかったのだが、こちらの気持ちがこの辺りで萎えてしまった。

最後の取材相手として、国立栄養研究所(国立健康・栄養研究所)の山口迪夫さんのところに行くことにした。研究所は今のところより少し早稲田大学の文学部に近いところあったように記憶している。とにかく古い汚いボロビルだった。入り口には守衛がいるが、出入りする人間を気に留める様子もない。それでも聞くと階段を上がった上の階だと言われた。言われた通りに行って、廊下から部屋に入っても人のいる気配はない。ガランとして薄暗い。机の上には本や資料がうず高く積まれている。

さらに入って行くと、人が座っている後姿が見えた。声をかけると振り返った人が山口さんだった。用件を告げると、丸い木の椅子を勧めてくれた。話し始めると、人柄のよさそうな方だった。それでもなぜ健康情報シリーズのローヤルゼリーがあんな内容になったのか聞くと、申し訳なさそうな表情をして、「認められている効果はあれしかなかったんですよ」と言う。様々な研究論文を調べたが見つからない。それで結局メルクインデックスを調べた。そこには滋養強壮効果しか載っていなかったと言う。

(ヘルスライフビジネス2021年9月1日号「私の故旧忘れ得べき」本紙主幹・木村忠明)

※第179回は2月3日(火)更新予定(毎週火曜日更新)

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