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確かに正論であると何度も思った(179)
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1971年(昭和46年)にはゼリア新薬がローヤルゼリーの医薬品『ローヤルゼリー散』を出している。この薬の効果は滋養強壮や疲労回復などである。辞書によると滋養とは「身体の栄養になること」、強壮とは「身体が丈夫で元気なこと」とある。これがなぜ医薬品の効果になるのか、いまだに理解不能だ。栄養の効果ではないのかと思う。
それはさておき、この頃は健康食品でヒトを対象にした科学的研究がほとんどされていなかった。ローヤルゼリーも売る側は「美容に良い」「若返る」と言って売っていた。中には高血圧やがんに効くと言うものもあった。そして売っている方も、買っている方も、そのことを不思議とも思っていなかった。
そうした意味では「健康情報シリーズ」は健康食品業界に科学的研究が必要だと思わせる機会を与えた。これが後の機能性食品につながっていった。がしかしそれまでは“中国3千年の歴史”、“神農本草教に載っている”で双方納得していたのだ。
「それにしても、研究データがない以上、否定されても文句は言えないねェ」と電話の向こうで、吉池さんはため息をついた。これでは連載で「健康情報シリーズ」に反論をすることも出来ない。
編集部に帰ると、編集長を捕まえた。編集長はクロレラの担当だった。
「どうでした」と言うと、「う~ん」と唸った。改めて取材してみると、なかなか厳しいと言う。クロレラも培養法の研究やカビ毒のフェオフォルバイド問題に関連した研究はある。しかし健康効果の研究は意外に少ないのだそうだ。数年前にがん学会で九州大学医学部の野本亀久夫教授ががんへの効果を発表したことは知られていたが、めぼしいものはそれくらいだった。
この頃、クロレラと言えば新聞の折り込みチラシが知られていた。個人の体験談が様々に語られ、多くの病気に効くかような印象を与えていた。効能効果は薬事法規制の1丁目1番地だった。しかしビタミンのように科学的根拠があるものでも薬事法規制で効果が言えないのに、なぜクロレラだけは薬事法で規制されないのかと言う疑問を持つ人は多かった。
それ以上に問題だったのは、その体験談を裏付けるような研究データがほとんど見当たらないことだ。
健康効果についての研究はこの事件以降徐々に行われるようになり、機能性食品の制度が出来て一気に弾みがつく。
「で、どうする」と編集長は会議で言い出した。進行中の連載にローヤルゼリーやクロレラを含めるかどうかということが議題になった。
「やめますか」と私が言うと、「そうだね」と葛西博士が同調した。都合の悪いものはカットしようと言うことに決まりかけた。すると若手の岩澤君が珍しく口を開いた。
「それは変ですよ」
何が変かと言うと、「健康情報シリーズ」にはビタミン、ミネラル以外にも、他の健康食品が取り上げられている。それを取り上げないで、科学的な研究があるものだけ取り上げるとすると、読者に「あとはどうした!」って言われますよと言う。確かにそうだと思った。そしてベテラン組は自らの姑息を恥じた。岩澤君はさらに付け加えた。
「研究データがない健康食品はこの機会に研究を始めるべきだ」と言う。年間数十億円を稼いでいる会社もあるが、毎年1%を研究費に回せば相当の研究が出来るのではないかと言う。その位の投資もせずに、儲けを豪邸や車につぎ込み、銀座辺りに撒いて歩いている輩もいる。これではこの業界に将来はないと言うのだ。まことに正論である。それでクロレラもローヤルゼリーも元通り取り上げることになった。
すると今度は葛西博士が言い出した。
「細谷さんも取材しよう」
細谷さんとはこの「健康情報シリーズ」の総監修者で、東京大学医学部教授の細谷憲政さんのことだ。
「ほかの先生ばかりを取材しても細谷さんに聞かないと片手落ちだ」
確かにこれも正論である。
(ヘルスライフビジネス2021年9月15日号「私の故旧忘れ得べき」本紙主幹・木村忠明)