米国人は「自分の健康は自分で守る」(44)

2023年7月4日

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GNCの店内でガイドの話は続く。米国は日本のように国民皆保険ではない。しかし公的保険が存在しないわけではない。「メディケイド」と「メディケア」というものがある。

「メディケイド」は低所得者だけの保険で、「メディケア」は65歳以上の高齢者と身体障害者に限られている。当時は国民の1割がこれらに加入していたようだが、現在では2割を超えているようだ。それだけ低所得者層が増えているわけだが、それ以外の人は民間保険に入る。そうでないと高額の医療費を現金で払えないからだ。

ちなみに、外務省のデータによると盲腸の手術で1日入院した場合の医療費(AU2000年調べ)はロサンゼルスで194万円、最も高いニューヨークで243万円というから驚きだ。さらに、虫歯を2本を抜いて1200ドル(14万1600円)とバカ高い。1981年のニューヨークでも似たり寄ったりの値段だったのだろう。だから保険に入らないと大変だ。

「ところがこの保険がまた高い」
通常だと、一人当たり300ドル(3万6000円)から500ドル(6万円)で、4人家族では2000ドル(24万円)くらいかかるともいわれる。ところが保険に入っているからと言って、どんな医療でも受けられるのかというと、そうではないところがまた悩ましい。

米国人の家計の1割 は医療費に消えるといわれる。この高い医療費が払えないと、病院で診てもらえない。以前は4000万人から5000万人が医療に罹れずに、年間で5万人が死亡しているともいわれていた。

世界で最も医療の発達した国、世界で最も豊かな国、アメリカでこうした現実がある。「オバマケア」で国民皆保険を目指すのは当然のことだ。しかし、これに反対する人たちも少なくない。お金のない人たちは努力しない「怠け者」で、そんな人たちの医療費を負担する必要はないという主張もある。

「働かざる者食うべからず」。母親がよく私に浴びせた言葉だが、ソビエトを作ったレーニンが広めた言葉を社会主義者でもない私の母が何で知っていたのか不思議だ。さらに不思議なのは、資本主義の大国でもこの言葉が通じるということだ。「それでこの国では自分の健康は自分で守るということが当たり前になっているんです」

運動や食事、そしてサプリメントなどで健康づくりをするのが当たり前のことになっているという。ビタミンショップやナチュラルフーズショップが全米の各地に広がり、NASA(米航空宇宙局)の飛行士の健康管理をしたクーパー博士のエアロビクス(有酸素運動)が話題を呼び、エアロビクスダンスが流行していた。

ところが日本は違った。この頃、日本の国民皆保険では自己負担はまだなく、医療はタダだと思われていた。当然、全額国が負担してくれるというぬるま湯に浸かった国民の間には自分の健康は自分で守るという意識が希薄だった。

「だから日本ではこうしたビジネスは難しいという人もいる」とコーディネーターの富田さんがいう。

「平気ですよ、日本人は軽薄だから」。

米国でブームになっていれば飛びつく連中が出てくる。そのうち日本でも流行るようになるというわけだ。この葛西博士のご託宣は当たりだった。その年の終わりにエアロビクスダンスが日本に入ってくると、瞬く間に若者がそれに飛びついた。しばらくすると、おばさんおじさんまでも、あのギンギラギンのウエアを着て飛び跳ねるようになった。

だいぶ経ったので店内を見回すと、レジのところに列が出来ている。我々の一行がサプリメントを山のように買っている。最初は迷惑気な顔をしていた店長も儲かるとなればニコニコ顔だ。

「けっこう取材に答えてくれたよ」とこちらの編集長もご機嫌だ。外を見ると夕焼けで、「そろそろ帰って、食事に行きましょう」と富田さんの一言で、店を出た。

(ヘルスライフビジネス2016年2月1日号「私の故旧忘れ得べき」本紙主幹・木村忠明)

※第45回は7月11日(火)更新予定(毎週火曜日更新)

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