健康食品の広告・販売 規制事例の分析と研究(1)

2022年11月2日

12月10日と14日に消費者庁が公表した自動車の広告に関する2件の措置命令は、いずれも健康訴求広告の実務に直接参考になるものではないので、ここでは解説を割愛させて頂く。11月11日の京都府警の特商法による摘発については、12月1日号の当欄で見解を述べたが、11月25日に統括会社本社へ家宅捜索が行われたことや12月2日に2人の容疑者が再逮捕されたという事件のその後の進展が報じられている。今回はそれについて解説するが、それだけでは紙数に余裕があるので、最近頂いた広告のグレー表現に関する質問の内容を紹介して筆者の見解を述べたい。※「ヘルスライフビジネス」2022年1月1日号掲載の記事です。

特商法による摘発事件の事後の進展

 11月9日に京都府警は特商法違反容疑で京都府の公務員の男と自営業者の女を逮捕した。2人は連鎖販売取引業者である日本アムウェイ合同会社(A社)の会員で、逮捕容疑はマッチングアプリで知り合った20代の女性をA社の会員にするという目的を告げずに勧誘したというものだったと報道されている。

 容疑者が公務員であることの他に、勧誘目的不明示だけの容疑での摘発はこれでまでなかったので注目されたわけだが、男性との交際を期待した女性をSNSの悪用で騙したことが摘発理由であるという筆者の見解は、12月1日号の当欄で述べた通りである。

 公務員の容疑者は容疑を認めており、府警は11月25日に東京のA社本社を家宅捜索して2人が勧誘した会員の名簿などを押収した。それにより判明した新たな容疑によるものと思われるが、府警は12月2日に2人を再逮捕したと、いずれもNHK NEWS WEBが報じている。A社への家宅捜索は2人の容疑に関して行われたと筆者は理解しているが、A社の責任はどうなるのかについて次項で検討したい。

今回の事件に関する統括会社の責任

 特商法33条の2は、連鎖販売事業の統括者(A社)と統括者が勧誘を行わせる者、それ以外に連鎖販売業を行う者(2人はこのいずれかに当たる)の3者は、勧誘に先立ち、その氏名、勧誘が目的である旨、それに関する商品などの種類について告げる義務のあることを規定している。

従って、今回の2人の勧誘にA社も関与していることが押収資料などから発覚すれば、A社の責任も問われることになる。

 問題はA社が関与した物証がない場合でも、2人の違法な勧誘がA社の業績に寄与している場合A社に責任はないと言えるのかという点である。

 SNSを利用すればA社が関与しなくても、それ以外の者の違法勧誘によりA社も利益を受けることはあり得る。そのような場合のA社の責任が問われるか否かについては、今回の事件の今後の進展で判断できる筈だ。事件の捜査はまだ終わっていないと思われるが、それについては今後の報道を待つしかない。その時点で改めて解説させて頂くことにしてリードでもお断りしたように、次項では質問を頂いたものについて、見解を述べたい。

グレー表現に関する広告規制上の判断基準

 頂いた質問は、広告表現の案文について、規制に違反せずにグレー表現の範囲内で広告したいので、不適切な点を指摘して貰いたいという趣旨のものであった。

 実際の案文についてはここでは紹介を控えさせて頂くが、質問を頂いた広告主の規制上での「グレー表現」に関する理解は適切とは言えない。このような広告主がおられるのであれば、不適切であることを理解して頂きたいので、規制上における「グレー表現」の扱いについて私見を述べる。

 通知や処分例では「グレー表現」という用語やその定義のようなものは見当たらない。従って、これは業界などで使われている用語であって「グレー表現」だから○というような規制上の判断基準になるものではない。

 行政側の規制上の用語に「グレー表現」はないが「暗示表現」はある。これであれば、通知で明確に例示されているので判断基準になる。そこでそれについて次項で解説する。

暗示表現の規制規準と実務上の留意点

 広辞苑が「グレー」に「あいまいなこと、どっちつかずであること」という意味もあるとしているように、○×の判断がつけにくい場合に通常「グレー」という用語が使われている。

 それに対して規制上の「暗示」は、明示と同じく×になるものとされている。「便秘解消」は医薬品的表現の明示になるが「スッキリする」が便秘解消の暗示表現であれば、同じく医薬品的表現と判断される。

 しかし、もちろん、すべての「スッキリする」が「便秘解消」の暗示表現になるわけではなく、規制上では○になるものと×になるものとが存在することになる。

 つまり暗示表現が×であることは明確だが、何がそれに当たるのか判断において「あいまいで、どっちつかず」な場合が生じることになる。つまり「グレー表現」とは、○と×がどっちつかずなものである。○になればよいが、×になればグレーではなくなる。

 46通知など主要な通知だけでは「スッキリする」の○×の判断基準の例示は明確ではない。しかし、その後、判断基準は明らかになっている。1月19日のヘルスビジネスメディア社主催のセミナーで、それについて詳解する予定である。

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