アスリートの臨床データを商品開発に活用/ユーフォリア

2022年12月5日

コンディション管理ツールを通じて培ったスポーツチーム・アスリート基盤が強み

 現在の日本におけるプロスポーツや日本代表選手の活躍は目覚ましい。その背景の一つに、コンディション、パフォーマンスの向上を支えるテクノロジーが活用されている。ユーフォリアの開発・提供する「ワンタップスポーツ」はアスリートの状態をデータで可視化し、トレーニングとリカバリーの最適なサイクルを生み出す支援をする。そしてユーフォリアは「ワンタップスポーツ」のユーザーである、アスリートのネットワークを武器に、スポーツ分野のメーカー向けに商品開発やプロモーションの支援を始めている。ユーフォリアのスポーツデータマネジメント事業部部長の畔柳(くろやなぎ)博基氏とR&Dチームマネージャーの高橋良輔氏に、アスリートの臨床研究への参加とそのデータ活用の可能性について聞いた。

(左より)畔柳博基氏と高橋良輔氏

約1700チーム、71競技が利用する「ワンタップスポーツ」

ーー「ワンタップスポーツ」とは

 「ワンタップスポーツ」は2013年にラグビー日本代表にアスリート向けコンディション可視化ツールを開発提供したことから始まりました。

 現在、「ワンタップスポーツ」は、各競技の代表チームやプロチームをはじめ、約1700チーム・71競技でご利用いただいています。また昨年の東京五輪でも選手の半数近くにご利用いただきました。最近では大学生や高校生などの学生スポーツチームでも、利用が広がりつつあります。

 「ワンタップスポーツ」はアスリートの体調やコンディションに関連する様々な情報を「見える化」し、トレーニング計画の作成やケガの予防を支援するためのクラウド型の「アスリートマネジメントシステム」です。

選手のコンディション、トレーニング負荷や食事・睡眠、ケガの情報を集約し、選手のコンディションを試合で一番良い状態へと創り上げていくことや、ケガ防止を図ることにお役立ていただけるサービスです。

選手が毎日のコンディションを入力し、スタッフ(監督・コーチ・トレーナー・栄養士等)は、そのデータが集約されたダッシュボードで管理・分析することで日々のトレーニング計画の作成や選手の指導に活用します。

 これまで私たちが「ワンタップスポーツ」を通じてスポーツチームのコンディショニングを支援してきたノウハウや、蓄積されたユーザー基盤および許諾を得たデータを有効活用し、企業・団体に向けて新たな価値提供をしていこうとしています。

ーー商品開発やマーケティング支援サービスの特長は

 私たちの事業を一言でいうと「『ワンタップスポーツ』のユーザー基盤を活用したメーカー向けの商品開発・マーケティング支援」です。

 私たちの商品開発・マーケティング支援サービスのユニークさは「ワンタップスポーツ」のユーザー数や対象競技の豊富さだけでなく臨床研究の計画・設計からデータの分析、商品の販促活動までを一気通貫で実施できる点にあります。

 例えば、某健康機器メーカーと、アスリートの筋肉疲労のリカバリーに特化した電気治療器の研究開発を行いました。クロスオーバー試験を実施し、「ワンタップスポーツ」を介して部位別の筋肉疲労度のデータを収集し、競技ごとにどのような使い方が有効であるかの検証を行いました。またアスリートに実際の使用感についてのアンケートを取り、アスリートの生の声を反映した新商品が誕生しました。

 その後、検証結果を踏まえたアスリートインタビューをオウンドメディアで発信するなどして、研究からプロモーションまで行える当社の強みを最大限発揮できたと感じています。

 また、食品・製薬メーカーからのご依頼も多く、アスリートにプラセボを含む試験品を摂取してもらい、並行群間比較試験を行っています。持久力や瞬発力などの運動能力測定や血液などの生体指標の検査を行い、その結果を商品開発とプロモーションにお役立ていただきました。

 大学などの教育研究機関と連携する企業も多いと思いますが、弊社は年代や性別、競技、 プロ・アマを問わずさまざまなチームからアスリート被験者を集めて大々的に試験を行えることが差別化のポイントです。

 スポーツ向けの商品・サービスを開発されている企業が、今まで実施できなかったようなアスリートを被験者とした研究を後押しすることが結果的に商品開発の質を高め、アスリートの競技力向上につながっていくという期待をもっています。

臨床データの品質に高い評価

ーー商品開発をしているメーカーにとっての課題は

 メーカーが共通して持っている課題の一つに「スポーツ選手向けの商品開発にあたり、商品購買層にあたる本当のターゲットを被験者として必要な人数を集め研究を実施することが難しい 」ことがあります。

 メーカーのご担当者の方々は、しっかりとアスリートを被験者として研究を実施し、有効性を証明することで自信を持って製品を市場に投入し、アスリートに商品をご利用いただくことで競技者としてさらに高みを目指してほしいと願っています。

 その願いの実現を支援するためにも私たちは、開発・プロモーションしたい商品に対してどの競技の競技者が良いか、またどの年代の競技者が良いかなどのターゲットを明確にし、有効性を適切に評価できるような試験プロトコルの設計、正確なデータが収集できるような被験者の管理を行います。

 また私たちはチーム単位で被験者をリクルートするので、トレーニング強度や生活習慣など被験者の条件・背景がそろった状態で試験を行えることは大きなアドバンテージだと思います。

メーカーが求めているターゲットに合った被験者のリクルーティングを効率的に行え、データ欠損も少ないため、臨床データの質についても高く評価を頂いています。

ーー今後の取り組みについて

 各メーカーの多様な研究ニーズに応えるためにも「ワンタップスポーツ」のご利用チーム数や競技の幅は今後も拡大していきます。

 また得られたデータにしっかりと意味付けや解釈をいれられることも重要だと考えています。蓄積したデータがたくさんある、というだけではなく、そのデータが、プロモーションしたい商品にどのようなメッセージを付加できるのか、そしてどのように情報発信することで届けたいターゲットに届けられるのか、ということまで意識してサービス提供することが求められていると感じています。

スポーツ科学に基づいた提案

ーーアスリートにとってのサプリメント活用について          

 私たちの臨床研究の目的として、商品の有効性を評価するものもあれば、今後のサービス開発に向けた支援をすることもあります。

 メーカーに共通する悩みは、小売店を間に挟むことで直接ユーザーと接点が持てないことです。

 切り口はメーカーによって違いますが、いかに個人に最適化された商品やサービスを届けられるかは、各社が共通して考えているテーマだと捉えています。

 またメーカーは商品の改良を重ね、ラインアップを増やしていくケースがあります。アスリートは、それらの多くの商品から自分の課題に合った商品を、試合前やオフなどのタイミングに応じて適切に選んで摂取したいと考えています。こういった背景から、必要な時期に 必要な成分を摂取する、ということをしっかりと伝えたいと考えるメーカーが増えています。時には摂取自体を控えるよう伝える必要も出てくるかもしれません。

 そのタイミングとバランスを最適化するのが私たちの果たすべき役割だと思っています。

ーー商品・サービスとデータのマッチングの際に注意していることは

 企業が検証したい項目や、明らかにしたい調査の内容をそのままチームに伝えても時期やチームの方針によっては実現が難しい場合があります。その場合は私たちが研究目的をしっかり理解した上で、チームが受け入れやすい研究プロトコルを設計し、研究の実施に向けて落としどころを探りに行くという業務も行います。

 研究・調査依頼を頂いたら、依頼の内容をアスリートの競技生活に寄り添ったものにすべくアスリートが許容できる範囲や懸念点を依頼主の企業にお伝えさせていただくこともあります。そうやって商品開発や研究を、アスリートの負担の少ないものにしていくことも大切です。

 弊社にはスポーツ科学の博士課程を経て、実際にスポーツ現場での指導経験もある専門家が多数在籍しています。ご依頼を頂いた際は、プロジェクトチームに研究内容に応じた専門家も加え、最先端のスポーツ科学の知見を踏まえたご提案をさせていただいています。ご依頼主である企業の期待値を一段階超えてお返しするよう常々意識しています。

ーースポーツにおけるデータ活用の今後つきまして

 以前に比べてチームが競技力向上のためにデータを活用することが一般的になりつつあります。

 それはチームにとってはあくまでチームの競技力向上のために役立てられるものであっても、実はそのデータを研究に活かすことで、企業の求めていたデータになるのではないかと思います。

 例えばトレーニング中の走行距離や運動強度、睡眠や食事データなど普段から当たり前に蓄積しているデータが、実は企業が求めているデータであるというケースもあるのです。

 そんな有効活用しきれていないデータを、私たちが間に入ることで企業の研究開発に役立てられる可能性があります。そしてスポーツチームにとっても負担なく臨床研究に協力することで対価を得て、自分たちの競技環境が改善されるだけでなく、スポーツ界にとって価値があるものを生みだすことができます。そんなお手伝いをすることが私たちの使命だと思っています。

ーーありがとうございました。


株式会社ユーフォリア

会社所在地:〒102-0085 東京都千代田区六番町5-5 飯田ビル2F

事業内容:スポーツ領域におけるITソリューション提供(コンディショニング管理・各種データベース開発・ コンサルティング)
スポーツマーケティング(戦略構築・商品企画・実行支援)
スポーツデータサイエンス

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