健康食品の広告・販売 規制事例の分析と研究(6)

2022年12月14日

※「ヘルスライフビジネス」2022年6月1日号掲載の記事です。                        消費者庁は5月13日に本年1~3月期の健康食品などのネット広告に関する監視結果を公表した。これは健増法により消費者庁創設時から継続して行われている事業だが、公表内容は同庁のサイトで閲覧できるので解説は割愛させて頂く。5月24日の時点で解説が必要な他の情報も見当たらないので、今回は機能性表示食品(キノウ)広告の規制基準について見解をまとめてみたい。これについて、令和2年3月24日公表の事後的規制に関する指針、本年3月31日公表の行政指導例と業界の自主基準に基づき、届出表示の一部切り出しや体験談、推薦文の使い方を解説する。

行政指導例などに基づく機能性表示食品広告規制基準

届出表示・資料の範囲からの逸脱の基準が重要

機能性広告規制の根幹は医薬品との誤認防止

届出表示は医薬品との誤認を防ぐ工夫がある

 リードで紹介した令和2年3月24日公表の事後的規制に関する指針(以下、指針)は、キノウ広告規制の主な類罫の筆頭に「届出された機能性の範囲を逸脱した表示」をあげている。他はトクホと誤認させたり、国の許可を受けたと誤認させる表示や科学的根拠のない表示だが、これは規制の理由は明確で、解説の余地はないといえる。

 それに対して「届出された機能性の範囲を逸脱した表示」については解説が必要で。特に問題になるのは届出表示・資料からの引用だが、詳細は事項に譲り、ここではなぜ規制されるのかについて見解を述べる。

 たとえば「日常の生活で生じる身体的な疲労感を軽減する」という届出表示を、その広告で「疲労軽減」と簡略化して使用したとする。しかし、46通知では「疲労回復」は「身体の組織機能の一般的増強、増進を主たる目的とする」医薬品的効能効果とされておりキノウ制度創設以降も変わっていない。つまり、届出表示には「疲労回復」と誤認させないための工夫がされているわけで、これが簡略化を規制する理由だと言える。

届出表示・資料の広告での使用に関する基準

 本年3月31日公表の事例では「加齢によって低下する脳の血流を改善し、認知機能の一部である記憶力(日常生活で生じる行動や判断を記憶し思い出す力)を維持することが報告されています」という届出表示を「脳の血流を改善」とのみ切り出して広告に使用したものが、改善指導されている。

脳の血流を改善」するデータがあったとしても、これだけでは前項の「疲労回復」と同じように、医薬品的効能効果と誤認されやすい。このように考えれば、今回の改善指導の理由は理解できる。

 しかし「疲労回復」や「脳の血流を改善」のような簡略化以外の、改善指導の対象になった届出表示の「日常生活で生じる行動や判断を記憶し思い出す力が維持できます」という簡略化は可能だろうか。

 これについて筆者は、医薬品的効能効果との誤認と効果の断定・保証という観点から、判断されるのではないかと考えている。従って、この簡略化の例を届出表示の範囲を逸脱しないと主張できると思われる。

体験談と個人の感想の使用に関する基準

 体験談は最強の訴求表現というのが業界の常識だが、指針では「届出された機能性の範囲を逸脱した表示」が最重要な規制事項として、体験談には触れていない。それはもちろん、それに体験談の使用が含まれるということであろう。

 指針には、別に体験談に関する基準の例示があり、広告でキノウ商品の効果に言及する場合は、体験者の数・属性、効果の有無の割合が明記されていれば、届出された機能性の範囲内であることを条件にして、言及が許容されている。ただし、これは体験者数が統計的に意味のある場合に限られるはずだから、体験者がわずかな場合は該当しないと思われる。

 その場合は、業界の自主基準が許容している「個人の感想等」を使えばよいことになるが、この場合も「感想等」と「効果の言及」と具体的な違いが規定されていない。

 直近の全国紙の審査状況をみると、商品の使用感の範囲で効果の感想を表現した次のような広告が許容されていると、筆者は理解している。

「ひざを動かすのが楽に感じている」「ひざが気にならなくなった」「もう手放せない」「試した末にやっと出会えた」など

医師などの推薦文の使用に関する基準

 訴求表現の強さの点では推薦文も体験談と似ている。指針が「医師や専門家等の推奨等」という項目で例示している内容を要約して紹介しよう。

医師や専門家などがキノウ商品の推奨などを行うことは、次の場合を除いて可能である。×になるのは、機能性の範囲を逸脱している場合と次の場合。疾病名の使用、虚偽の推奨、利害関係者に依頼したのに客観的な推奨のようにしたもの、推奨者の肩書きを偽ったもの。」

 業界の自主基準では、要約すると「研究者、医師などの専門家の商品の機能性(効果)、作用機序、統計データなどに関する説明は、届出資料の範囲内であれば可能」とされている。これは届出資料からの引用に関する規定であり、医師などの商品の推奨については触れられていない。

 従って、医師の推奨も体験談の使用に関する基準と同様に考えられると筆者は理解している。全国紙掲載のキノウ広告の中には、著名な医師の推奨文を、医師であることを伏せて使用しているものが見られる。なぜ伏せるのか、筆者には理解できない。

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