「米国は病気で滅んでしまう」と上院が立ち上がる(32)

2023年4月11日

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帰りの電車で本の頁をめくってみた。読み進むうちに、すっかり内容にのめり込んだ。時間がないので、電車の中でも、昼飯を食べながらでも読んだ。気が付くと同僚がするように、歩きながらも読むようにもなった。しかししばらくして、これにはいささかコツがいることが分かった。安全な道ではないと危険だ。人や自転車に衝突する恐れがある。それで最初のうちは人通りの少ない路地か、はたまた歩道で、やや本から顔を離して、周りが見えるようにして歩きながら読んでいた。しかし慣れてくると、歩いている人が大勢で、同じ方向に歩いているが場所の方が読みやすいことに気付いた。例えば地下の通路だ。この速読ならぬ“足読”の術は今でも役立っている。歩きながらスマートフォンを見ている人がいるが、おかげで私は危ない思いをしたことがない。

ところで本の中身は、確かにすごい内容だった。1970年代の米国は繁栄に陰りが見えてきた時期に当たる。その一つに病気がある。以前にはなかった心臓病、がん、脳血管疾患などの現代病が増えて深刻な状態になっていた。

これらの病気は1900年初頭にはほとんど見られない病気だった。この時期の死因のトップは伝染病で、米国では半数を超える人がインフルエンザや結核などの感染症で亡くなっていた。感染症の時代は食べられない時代でもある。

ところが第2次世界大戦の後、米国は空前の繁栄期を迎える。飢えを克服して、ハンバーガー、ホットドック、フライドポテト、フライドチキン、アイスクリームなどの“アメリカンフード”をお腹一杯食べられるようになった。この時期には感染症によって死ぬ人はいなくなり、今度は生活習慣病が感染症に取って代わることになる。

1950年代に起こった朝鮮戦争で亡くなった平均22歳の若い兵士を調べてみたら、45%に動脈硬化がかなり進んでいた。さらに5%には明らかに心臓病の兆候が見つかった。中高年ではなく、若者に動脈硬化が進んで、心臓病の危機が広がっているのに、同じ戦争で亡くなった韓国人の兵士にはこうした症状は見られなかった。これは米国社会に大きな衝撃を与えた。

ところが国は世界で一番豊かな米国に栄養問題はないと耳を貸そうとはしなかった。飢えをようやく克服して、十分食べられるようになったのだ。当然と言えば当然の言い分である。しかしすでに米国は飽食の時代の栄養欠陥を抱え込むようになっていた。それに気付くにはもう少し時間が必要だった。

「ガン、心臓病をはじめ多くの病気が増えている。そして進歩したとされるアメリカの医学を活用し、しかも巨額の医療費が注ぎ込まれているのに、米国の国民は病気ばかり増えてますます不健康になるばかりだ。この原因を解明し根本的な対策を立てないことには米国は病気で滅んでしまう」

この危機感を持って、議会が立ち上がった。そしてマクガバン委員会は2年に亘る公聴会を開催したのだ。

(ヘルスライフビジネス2015年6月15日号「私の故旧忘れ得べき」本紙主幹・木村忠明)

※第33回は4月18日(火)更新予定(毎週火曜日更新)

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