キノウ制度創設の背景が取締り基準を変えた(12)

2023年5月30日

※「ヘルスライフビジネス」2022年12月1日号掲載の記事です。                        10月下旬に愛知県警が食欲抑制効果のある「シブトラミン」含有食品の販売、11月10日に警視庁が「免疫力増強、感染症予防」を標ぼうした一般健食「サルースの葉」の広告・販売、11月16日までに大阪府警がブランド化粧品の模造・販売に関して、各々薬機法により摘発している。それに対して、11月18日に消費者庁は一般社団法人の一般健食広告の「免疫力が高まり、コロナ予防効果が得られる」といった標ぼうに対し措置命令を行った。これらの事例に基づいて、広告・販売がどのような法令の取締り・規制対象とされているのか、分析・検討し見解を述べる。

一般健食広告の摘発と行政処分の相違についての検討

キノウ制度以前の健康食品広告取締りの基準

 筆者はキノウ制度の創設によって、健食広告の規制・取締りの基準が変わったと理解している。キノウはトクホや栄養機能食品(エイキ)と同じ保健機能食品であるが、この2つの創設で判断基準が変わったわけではなく、キノウが創設されなければ変化はなかったと考えている。

 キノウ以前の健食(言うまでもなく、一般健食はキノウ以後に生じた呼称である)広告の取締り基準は46通知の例示に集約されている。要約すると次のようになる。

・万病に効果があると強調している健食広告は、これを信じる一般消費者に正しい医療を受ける機会を失わせている。

・それが病気悪化などの保健衛生上の危害を生じさせる。

・そのために、医薬品と健食との違いを明確にして、医薬品と誤認させる健食を厳重に取り締る必要がある。

 つまり、キノウ以前では、広告による医薬品との誤認の有無の判断基準が、取締り上最も重要とされていたわけである。

キノウ制度以後の健康食品取締りの基準

キノウ以前では、健食に医薬品的な効果があると強調することは、保健衛生上の危害を生じさせるおそれがあるとされていた。そのために、病気に効果がある、とくに癌などの難病に効果があることを強調する広告が、

実際の危害発生の有無に優先して、取締り対象とされた。

しかし、昭和の終わりの東大農学部などにおける「機能食品」の研究で

病気は医薬品でしか治せないわけではない」ことが知られるようになってきた。それに「病気を医薬品だけで治す」ことが財政上の医療費の負担を重くする要因になることが重なって、キノウ制度ができたと、筆者はみている。

もちろん、健食の効果の周知と医療費の削減という理由で、すべての健食広告の規制基準が変わったわけではない。保健機能食品以外の一般健食が46通知の対象になることは変わりない。

しかし、それであっても、一般健食を従来のように「医薬品との誤認の有無」だけで取り締まることは難しい、と考えられるようになったと筆者は推測している。

取締り基準に基づく今回の4事例の検討

 10月下旬の愛知県警の薬機法の摘発は「シブトラミン含有食品」の健康被害発生に起因しているようだ。広告の取締りによる摘発ではない。

 11月10日の警視庁の摘発は「免疫力増強、感染症予防」などの広告表現が対象とされているが、健康被害の生じていることや、7回の行政指導に従わなかったことも報じられている。

 11月16日までの大阪府警の摘発は、ブランド化粧品の模造に関するもので、これも広告の事件ではない。

 それに対して、11月18日の一般社団法人の一般健食広告が「免疫力が高まり、コロナ予防効果が得られる」などと標ぼうして処分された事件は、上述してきた「取締り基準の変化」がよくわる事例と言える。

 この広告はまさに46通知がいう「万病に効果があると強調している健食の広告」であり、以前であれば優先して摘発されたはずである。それが行政処分で済んだのは、判断基準が変わったからだと考えざるを得ない。

今回の4事例に基づく実務上の留意点

 キノウ制度ができて、健食と一般健食が区分されるようになった。消費者庁としては、一般健食を健食である保健機能食品に吸収し一元化したいはずである。広告の取締りもその目標に沿って行われるとすれば、11月18日の処分のような行政措置は、今後も優先して続くと思われる

 それに対して、一般健食広告だけは薬機法の対象となることに変わりはないが、摘発件数が減少を続けるのは間違いないだろう。しかし、その中で、次が優先して摘発の対象になると思われる。

・薬機法や景表法に関する消費者庁や都道府県の度重なる行政指導に従わず、不適切な広告を続ける場合。

・消費生活センターや警察に健康被害を訴える商品を摂取した顧客がいる場合。なお、トクホやキノウで健康被害が生じた場合は、承認や届出が撤回され、一般健食の扱いになり、通常では摘発されないはずである。

ウェブの仕組みを悪用したり、コロナ禍や災害に便乗して効果を広告するような場合。

 健食の健康被害は顧客の苦情への対欧が適切でない場合に生じることが多いようだ。商品が売れて顧客数が増えるほど被害の発生率も高まるわけで、顧客管理の重要性も増することになる。また、サイバーパトロールの強化により、ウェブ上の広告の摘発も、増加が続くはずである。

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