打消し表示を使用して×が○になることはない(15)

2023年7月12日

※「ヘルスライフビジネス」2023年2月1日号掲載の記事です。                           1月中旬までに薬機法の摘発事件が複数報じられているが、国内未承認医薬品成分含有のダイエットゼリーや偽バイアグラの販売に関する摘発で健食広告の事件ではない。景表法処分の公表も健食広告に関するものは見当たらない。そこで今回は健食広告での体験談に関する規制基準について解説する。前々号と前号で、暮れに改定が公表された景表法と健増法の一元的な規制基準について解説してきたが、そこでの体験談の規制基準について十分な説明ができなかった。そこで今回、多少の重複はお許し頂いて、体験談の規制上の判断基準について整理して私見を述べる。

健食広告での体験談規制に関する判断基準の分析と検討

一般健食広告での体験談使用の判断基準

まだ明確でない「個人の感想等」の○×の基準

① 薬機法の規制基準

 薬機法の健食広告に対する規制は、健食を医薬品と誤認させないために行われている。医薬品に類似する効能効果があると誤認させる健食広告が規制されるので、体験談であればすべて規制されているわけではない。

病気が治った」や「免疫力が強くなった」などの効能効果に関する体験談が規制されているのであって「摂取しやすかった」「摂取して元気でいます」などの体験談の規制例は見当たらない。

② 景表法・健増法の規制基準

 前号で紹介したように標記の規制基準は、虚偽誇大表示になる体験談の不適切使用に関する判断基準が紹介されているが、それでは「摂取しやすかった」「摂取して元気でいます」などの体験談の使用が○になるのかは明らかではない。しかし、薬機法で○になる表現は景表法などでも規制されにくいと言われており、規制例が公表されるまでは、筆者は○と考えている。

保健機能食品広告での体験談使用の判断基準

① トクホ・キノウ広告の体験談使用

 トクホ・キノウ広告は一般健食と異なり機能性が表示できる。しかし、これに関する体験談の使用について具体的な判断基準を消費者庁は公表していない。

 その代わりに、トクホとキノウのいずれの業界団体の広告に関する自主基準でも「個人の感想等」の体験談は使用できるとしており、消費者庁もこれを承知している。 

しかし「注意機能の維持に役立つ」という届出表示で「頭の回転の維持に役立っている」という体験談が許容されるのか、筆者の知る限り明確な基準は見当たらない。

 問題になるのは、トクホ・キノウ広告での効果の体験談使用の○×である。○であれば右の体験談の使用も、効果のあった体験者数などの表示があれば○になるわけで、×の判断が公表されるまでは○になると、筆者は理解している。

② エイキ広告の体験談使用

 これについては、規定された栄養機能以外の広告は一般健食として規制される、というのが判断基準である。

摘発や処分における体験談使用の扱われ方

 健食広告で最も訴求力が強いのは、体験談の使用であるとされているのは言うまでもない。それでは、摘発や行政処分といった規制の執行でも、体験談が優先して監視・取締りの対象になっているか検討してみよう。

 事例の紹介は割愛させて頂くが、体験談を使用した健食広告の摘発や行政処分は少なくない。しかし、それらは体験談を使用しなければ事件にはならなかったというものではないと筆者は理解している。事件になったのは、医薬品的や虚偽誇大な表現のためであり、体験談を含む広告全体に不適切表現が使われていなければ、事件にはならなかったはずだ。

 ただし、これは一般健食広告の場合である。機能性が表現できるトクホやキノウ広告での体験談の使用は、一般健食広告よりも取締りが強化されると筆者は考えている。 

その理由は、医薬品広告で効能効果の体験談使用が厳しく規制されていることにある。医薬品ではできないのに、トクホとキノウに効果の体験談が許容されることを、医薬品側が許容できるとは思えないからである。

体験談に付された打消し表示の規制基準

 標記について、景表法と健増法による健食広告の規制基準では次のように示されている。

「『個人の感想です』『効果を保証するものではありません』等の表示をしたとしても、虚偽誇大表示等に当たるか否かの判断に影響を与えるものではなく、体験談等を含む表示内容全体から、当該商品に健康保持増進効果等があるものと一般消費者に認識されるにもかかわらず、実際にはそのような効果がない場合には、その表示は虚偽誇大表示に当たる」

従って、体験談に打消し表示を付ける意味は皆無ということになる。また、逆に付けると、規制を逃れる意図があると判断されやすくなると思われる。

 これは薬機法による規制でも同じで、薬品品的効果を標ぼうした健食広告に「医薬品的効果ではないと打消し表示を付けて、意図的な違反だと判断された例がある。

 前号で述べたように、景表法などの規制基準の改定で、効果の体験談には、効果のあった体験者数などの表示の推奨が追加された。これも打消し表示の一種と言えるが、上述したように「頭の回転の維持に役立っている」といった体験談が、このようなデータを付けることで○になるのか明確でなければ、付ける意味はないことになる。