【規制】依頼や謝礼がなければ管理責任は問われないか(17)

2023年8月9日

※「ヘルスライフビジネス」2023年3月1日号掲載の記事です。                        今回も健康訴求広告に関する摘発や行政処分情報は見当たらなかった。前号でも事情は同じだったので、ステルスマーケティング広告(以下、ステマ広告)について私見を述べたが、筆者の研究会の会員から、実務上興味深い事例に基づく関連質問を頂いた。これへの筆者の見解は、読者各位の参考にもなると考え、質問と回答の内容を紹介して、前号の補足としたい。また、ステマ広告そのものではないが、連鎖販売での会員のSNSへの投稿について、統括会社がどこまで責任を持つべきか、摘発と行政処分の実例に基づいて統括会社側の実務上の留意点を述べることにする。

ステマ広告に関する広告主の管理責任についての検討

売上により管理責任があるという見解もある

健食会社の関知しない投稿例に関する質問

 まず、リードで述べた会員からの質問を紹介しよう。

「北海道在住の70歳のAには、東京の健食販社の社員である30歳の孫がいる、孫が営業を担当している健食***の売上不振を聞いたAは、ウェブに詳しかったので、SNSに、孫との関係が分からないよう工夫して、***の売上を上げるため、肝臓の検察値が大幅に改善した体験談を投稿した。

 その投稿が評判になり、***の売上が急伸した。孫も社内も、急伸の主因がその投稿にあったと考えたが、投稿が孫の祖父のものとは思いもしなかったので、調べることもしなかった。この投稿は顧客個人の感想であり、違法な広告に当たらないので、規制上の問題はないと考えていた。

質問1 Aの投稿は効能効果を標ぼうした***の広告にならないのか?

Aの責任はどうなるか?

質問2 Aは直接の利益を受けていないが、孫の会社は高額な利益を受けたことになる。このまま利益を享受していて何の責任も問われないのか?

健食会社の関知しない投稿例の規制上の検討

 会員と筆者の討議内容を整理・紹介し、筆者の見解を述べる。

会員 Aは直接販売していないわけだし、利益を受けてもいないから、広告主ではないということでよいか?

筆者 規制対象になる広告に関する判断基準は販売する意図があり、商品名が特定され、一般消費者が閲覧できるという3つの条件が揃った場合だから、それからするとこれは規制対象広告で、

Aは広告主になる

会員 しかし、Aは孫のためと思っただけで、広告主としての利益を受けていないし、そもそも、Aの投稿であることがわからなければ、規制できないことになる。

筆者 行政側が、これを***の違法広告と判断して調べれば、投稿者がAだと分かると思う。

会員 行政はそこまでやるのか?

筆者 現在の景表法ではできなくても改正すればできるし、今でも警察なら強制捜査は可能だ。

会員 Aにそこまで責任を問う必要がるのか?

筆者 私もAよりこの会社の責任のほうが重いと思う。孫と会社は、売上が違法広告になる投稿によると知りながら放置していたのだから、実質的な広告主と判断される余地はある。

SNBの投稿と広告主・販売会社の責任の検討

会員 孫の会社の責任はどうなるのか。実質的な広告主ということは措置命令の対象になるということか?

筆者 事例が見当たらないので分からないが、放置を続ければ、行政側も指導などを考えるのではないか。それを避けるなら、会社としても投稿の掲載を止めさせるような行動を実際に行って、行政側に理解して貰うべきだろう。

会員 ところでAは効能効果を広告で標ぼうしていることになれば、刑事上の責任はないか?

筆者 薬機法の無承認医薬品の広告になるかはこれも事例がないので分からない。ただ、朝日新聞の23年1月27日朝刊によると。警察庁は「ネット上の違法、有害な情報を把握し、書込みの削除を求める取り組みを強化する」と報じている。監視体制も増強する方針だとされているので、サイバーパトロールの強化により、Aの投稿が発覚すれば、薬機法違反容疑がもたれるかもしれないし、強制捜査されれば、孫の会社も捜査の対象になるおそれがある。

統括会社のSNSの悪用に関する責任

 2人の討議はこれで終わったが、会社の知らない(正確には知らなかったと主張したい)SNS投稿について、関係があるので、標記の筆者の見解を再度述べておく。

 21年11月の京都府警による大手連鎖販売会社N社の会員Bが特定商取引法違反容疑での摘発も、SNSの投稿に関する事件であった。

 BはマッチングアプリというSNSを使って若い女性と知り合った。女性は交際が目的だったが、Bは女性をN社の会員にして、同社の化粧品を販売することが目的であったとされている。

 無理に購入させられ女性は納得できず、府警に相談して摘発に至ったわけだが、この会員は同様の方法で売上を伸ばし、N社はこの会員がこのような方法で会員を増やし販売していたことを知らなかったはずがなかったと、当然考えられる。

 そうであるとすれば、Bの責任は当然としても筆者が問題にしたいのはN社の管理責任である。連鎖販売に対するあらぬ誤解を解くためにも、明らかに正常とは思えない販売を管理し正すシステムの構築が必要である。

規制上の責任を問われるリスクと管理費用を比較しても、その効果は瞭然のように思える。