裁判で46通知は薬事法の範囲と判断された(61)

2023年10月31日

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この頃の厚生省には生活衛生局という食品を扱う部門はあった。しかし、健康食品を担当する部門はなく、強いて挙げれば食品衛生課くらいだった。それも食品の衛生や安全問題だけで、効果になると「うちのほうじゃないんで、あっちへ行ってよ」となる。

この「あっち」とは、薬を扱う薬務局の監視指導課である。後に麻薬対策と一緒になり、監視指導・麻薬対策課として今も続いている部署だ。名前の通り行政指導と取り締まりが専門で、担当官は麻薬の取り締まりには銃を携行できるという噂のある怖い組織である。

もちろんこの時期には麻薬は扱っていなかったが、薬事法(現・薬機法)により薬の取り締まりをしていた。この関連で"ニセ薬"として健康食品の規制もしていた。

この規制の根拠が46通知だった。しかしこの通知が行政指導の範囲を逸脱して取り締まりに使われている。しかも健康食品の薬事法違反事件を巡って、この46通知を判断基準として判決が出ているというわけで、「大問題だ」ということになった。

しかし「ここで話していてもらちが明かない」ということで、日本の規制の話に終始して米国ツアーの報告はお開きになった。渡辺邸の帰り道に坂をトボトボ下りながら、「本当に行くの」と葛西博士に聞いた。渡辺先生が厚生省に聞きに行けという。それで葛西博士が鬼の首を取りに行くことになった。

「だって、このままにしておけないから・・・」という。このネタは厚生省の答えようによっては行政、司法、業界を巻き込む重大な問題に発展する可能性がある。新聞記者とはこういうことに身震いするほど燃える習性を持った人種である。そして彼も私も編集長も同じ人種であることは間違いない。

「俺も一緒に行こうかな」と言うとあっさり断られた。歴史的な取材の現場に立ち会いたいというのが本音だった。しかし大ネタは自分だけのものにしたいというのが人情だ。彼の気持ちもわからないではない。
「それにしても面白くなってきたなァ」と編集長が思わず大きな声を上げた。

ところがしばらく経ったある日、厚生省に取材に行った葛西博士は浮かない顔をして帰ってきた。監視指導課の担当官によると、通常の通知であれば行政指導の範囲だが、この46通知は別だということらしい。というのもこの時点で「つかれず」という健康食品の裁判の判決が地裁、高裁で出ていた。この判決の根拠となったのが46通知で、これによって46通知が薬事法の範囲と司法に認められたということだといったというのが厚生省側の見解だった。

この時「つかれず」裁判は最高裁で争われていた。そして今までの経緯からも、この裁判で司法が46通知を判断基準にすることは目に見えていた。

「これは通知ではない。薬事法そのものだというわけだ」
そうなれば何もいうことはない。結局、彼はいいくるめられて、すごすごと帰ってきたのだ。翌年最高裁の判決が出たが、やはり予測通りで46通知を判断基準にして、業者は薬事法違反になった。

ところが後年、この時の裁判に関係した国側の司法関係者に会う機会があった。その時、46通知に話題が及ぶと、意外な裏事情を話してくれた。
それによると、薬事法では裁けないので困って世界中の法規制を調べた。しかし、健康食品を裁くため参考になるものは見つからなかった。それで仕方なしに46通知を使ったのだという。

「行政の通知は法律ではないので、あれで裁くことはできないのです」とのことだった。あの時あっさり引き下がらなかったら、もう少し違った状況になっていたかもしれないと思ったが、すでに後の祭りだった。理不尽なことがまかり通るのが世の中かもしれない。

(ヘルスライフビジネス2016年10月15日号「私の故旧忘れ得べき」本紙主幹・木村忠明)

※第62回は11月7日(火)更新予定(毎週火曜日更新)

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