【規制】さくら社事件に関し広告実務の参考にすべき点(28)

2023年12月7日

※「ヘルスライフビジネス」2023年8月15日号掲載の記事です。                        6月30日公表の措置命令に関連して、7月27日に消費者庁は処分された2商品の届出が撤回されたことと、2商品と関与成分と根拠が同一の他の届出88件の疑義に関する回答結果を公表した。それによると撤回の申出が15件、根拠がある旨の主張が73件であったとされている。処分された2商品と届出内容が同一なのだとすると、この88件が処分されなかったのは広告表現の違いによることになる。そこで今回は2商品の広告表現について前号の補足として分析・検討する。併せて、今回の処分を契機とする問題を広告実務において何を参考にするべきか私見を述べる。

疑問が残る不適切表現と指摘された時点の対応

医薬品との曖昧な差異が遠因ではないのか?

今回の処分の経緯に関する分析と検討

 前号(808号)で紹介したように、今回の処分に関する公表資料の「表示の概要」が処分対象表現としているものには、明らかに医薬品的表現と思われるものとそうでないものがある。前者の典型が「血圧をグーンと下げる」で、処分は当然というしかない。

 しかし、このような表現が規制上で発覚したとしても、即座に処分されるわけではない、今回の処分では、広告表現以外にエビデンスの根拠に関する問題も絡んでいるので、これらを時系列で整理してみよう。

 今回の処分は不適切な広告表現の発覚が契機になったという見解によると、広告表現の発覚でエビデンスの疑義が生じたことになる。それから6月30日の公表までの経緯は推測するしかないが次の2点は区別して参考にするべきだと筆者は考えている。

 それは、不適切表現を判断できなかった点とそれが判明してからの対応に関する点である。

前者が防げなかったとしても、その後の対応が適切であれば、その後の規制上の進展は変わったはずで、その点を参考にするべきだと思われる。

不適切表現が判明した時点での対応の検討

 消費者庁が調査を開始した一般健食広告の景表法の案件で、指導で済んだ事例を、筆者は当事者から聞いたことがある。調査対象になった広告を行った事情とその防止策を行政側に理解して貰い、そのとおりに履行できれば、処分を免れ得る場合があるのは間違いない。

 薬機法の規制でも、指導がなく摘発されるのは特別な場合だと噂されている。今回の処分でも、さくら社の対応によっては別の展開があったのではないか。

 さくら社は5月10日に今回の処分対象になった届出表示を「日本の懐かしい食生活 あの頃の献立は栄養の宝庫でした」に変更する届出を出している。しかし、その後に処分・撤回が行なわれており、規制上は変更する意味はなかった。

 5月10日の時点で、エビデンス問題は発覚していたのであれば、このような変更届で事態が解決するはずがない。エビデンス問題の発覚前だとしても、変更よりも、それまでの広告・販売への対応が求められていたはずである。

キノウ制度の私見による問題点の分析

 今回の処分に関して、広告表現でさくら社の実務対応に問題のあったことはこれまで検討してきたとおりである。しかし、機能性の根拠に関しては制度そのものにも問題があったようだ。これについては筆者の専門外なので、わからない点が多い。

それに対して広告表現については、次の点が明らかに制度の問題であると考えている。

 医薬品の効能効果は「身体の組織機能の一般的増強、増進を主たる目的とする」ものであるのに対し、キノウの効果は「身体の生理機能、組織機能の良好な維持に適する又は改善に役立つ」ものとされている。

傍線部分の違いについての明確な判断基準が示されるべきだが、見当らないようだ。つまり、届出表示と医薬品の効能効果の違いの判断基準があいまいな点が、広告規制での制度上の最大の問題だと筆者には思える。

 その原因として推測できるのは、キノウ制度創設への賛成論と反対論の調整がつかず、未解決部分を見切り発車して、出発せざるを得なかったという背景である。

今回の問題の何を実務の参考にするべきか

 第一に参考にするべきなのは、さくら社に欠如していたキノウ広告に関する規制基準の理解の重要性と不適切広告である旨が判断された際の的確な対応である。しかし、判断基準があいまいであれば右の理解や対応だけでは済まないことが当然予想される。その解決策として考えられるものを、長期的・根幹的なものと短期的・対症療法的なものにわけて検討しよう。

 前者は、制度の見直し・修正である。簡単なことでないが、事業者がこれに積極的にならなければ、時間がかかるばかりになるはずだ。

 根本的な解決策に時間がかかれば、対症療法的な対策を軽視できない。

その対策としては、問題があるとしても、規制基準の理解と規制に対する的確な対応が基本になることは間違いない。繰り返すが、その点を今回の処分例から参考にするべきである。

 その基本策の補完として、例えば、公正取引協議会の創設を早く実現して入会することが考えられる。さくら社も仮に入会できていたら、処分は避けられたのではないか。

ただ、加盟には金銭的な負担がかかるし、恩恵があるのは会員社だけで非加入の事業者は区別される。また、協議会の目的は規制の円滑化にあり、規制緩和ではない。