新年号も加わって12月はてんやわんやの大騒ぎ(65)

2023年11月28日

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12月に入ると編集部では年末進行がはじまる。一年で一番忙しい時期だ。というのも月3回の通常号に加えて、新年号を年内に仕上げなければならないからだ。タイムリミットは印刷屋と発送屋が仕事を終える12月30日だ。

ところが、世間は忘年会シーズンである。私たちにも誘いがかかる。「とにかく忙しい」と断るが、スポンサーだとにべなく断るわけにもいかない。こちらも嫌いなほうじゃないので、多少は付き合う。しかし、いちいち付き合っていたら毎日二日酔いで仕事にならない。

この月の前半は全国を回って取材と広告取りに費やす。半ば以降は原稿書きとゲラの校正に専念する。ところが締め切りはどうしても遅れる。校正のゲラは次々に出てくる。広告の版下をこちらで作るものが多い。てんやわんやの忙しさになる。

編集部の机の上は書きかけの原稿用紙や資料、レイアウト用紙やゲラが山盛りで、その間に新聞紙、漫画雑誌、お菓子の袋や清涼飲料の缶などのゴミが加わる。ゴミ箱はとうに満杯で床にも散乱している。とにかくすごい状態だが、下手に片づけると大切な資料が見つからなくなる。それで掃除は一段落するまでしない。

そんな頃になると決まって、"陣中見舞い"と称して社長の園田さんがやってくる。普段は雑誌の方に入り浸っていて新聞などには寄り付きもしないくせに、こちらが迷惑なときに限って来るのだ。しかも血液型がA型だから散らかった室内や机が気に入らない。「片付けろ」という。「そんな時間はない」とひと悶着ある。恒例行事だ。

そうするうちに、今度は印刷屋の進行係の市川さんが原稿の催促にやって来る。締め切りはとうに過ぎている。「出来てない!」と開き直ると、「ああいいんだよ。こっちは」といって、お決まりの捨てセリフを吐く。「遅く入ったものは遅く出す」いやに力を入れて言うから腹立たしい。原稿が遅れれば発行が遅れる。こちらのせいではないというわけだ。
 
20日を過ぎると舞台は印刷屋の出張校正室に移る。この頃になると新年号の校正に来ている他の新聞社も加わって、校正室は座る場所もないありさまだ。仕方ないので4階の文選(活字を拾う部門)の脇の部屋を臨時で使う。部屋の端には布団がうず高く積んである。数日前から職人さんは泊まり込んでいるようだ。

入稿した後、原稿はこの文選に渡る。ここで活字の棚から原稿に合わせて拾われ、小さな横長の箱に一行15文字で並べられる。その活字にインクを落として、刷ったものを棒ゲラという。まずこれを校正する。終わると紙面のレイアウトに合わせて組み上げる"大組"という工程に移る。この組み上がった版にインクを落として刷ったゲラを再び校正する。

それも初稿、再校の2回で終わればいいが、3回目の再々校を出すと嫌がられる。待てど暮らせどゲラが出て来ない。2階の大組に行くと、違う新聞社の版をやっている。

「うちの新聞はどうなったんだ!」と声を荒げると、「あんなに赤字の入ったゲラは後回しだ!」と相手も負けてはいない。吐く息が酒臭い。殺気立っている。「鈴木さん何とかしてよ」と責任者に泣きつく。これも恒例行事だ。

校正を終えると最終工程の印刷だ。地下の輪転機が回り始めると職人さんがそのうちの1部を抜き取って、「どうこれで」と渡してくれる。各頁を確認して問題がなければ、「オッケーです。あとはよろしく」と言って階段を上がる。これで終わりだが、もう一つしておかなければならない"儀式"がある。一升瓶を下げて2階に行って、「今年もお世話になりました」といって大組の責任者に渡す。「よいお年を」という声を背にして、印刷屋を後に年末の街に繰り出す。

(ヘルスライフビジネス2016年12月1日号「私の故旧忘れ得べき」本紙主幹・木村忠明)

※第66回は12月5日(火)更新予定(毎週火曜日更新)

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