出展説明会はイベント会社が取り仕切る(70)
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来月に晴海の展示会を控えて、何かと慌しくなってきた。展示会の出展企業への説明会が行われる日になって、千代田区猿楽町の事務所に説明会へ出席する主催者側のメンバーが集まった。といっても、社長の園田さんと編集長、事務局長の葛西氏の3名だ。あとは展示会のイベント会社がやってくれるそうで、私と岩澤君、宇賀神さんは留守番だ。
とにかく初めてのことなので、朝からそわそわして落ち着かない。この会社にとっては一大事というわけだ。園田さんは書いてきた挨拶の原稿を何度も読み返す。「さてこの度は当社展示会にご出展頂き、誠にありがとうございます」というとその都度頭をペコリと頭を下げる。そんな姿を見ているうちに、どこかで見たような気がしはじめた。
「あれだよね」と葛西博士はいう。水飲み鳥だ。
読者でも見たことのある人もいると思う。鳥の形をしたおもちゃで、コップの水を飲むと頭があがり、しばらくすると頭がまた下がって水を飲む。
シーソーのようにこの動作を繰り返す。理由は鳥の頭から背中を通ってお尻までガラスの管になっていて、この中に化学物質が入っている。博士によるとそのせいでそうなるのだという。科学的には温度を利用して熱エネルギーを運動エネルギーに変換するという高尚な物理学の法則が働いているらしい。
園田さんの身体の中でこの高尚な法則が働いているかどうかは分からないが、確かに園田さんの頭が上下するのが水飲み鳥に似ていることだけは確かだった。
「ところで貴方の準備は出来てるの」と聞いた。彼も事務局長として挨拶をすることになっていた。ところが、挨拶文を用意している様子もないし、練習もしていない。しかし、彼は「僕はちゃんと肝が据わっているから平気なんだ」と自信ありげだった。
彼らが出展説明会に出かけてゆくと、こちらはいつものように取材に出かけた。このところ取材先でも展示会が話題になることが多かった。「いよいよ来月だね」と期待の声をかけてもらった。
そんな中で企業間の見栄の張り合いも起こる。「あの会社はいくらかけているの」と我々に聞く。コマの装飾にどのくらいのお金を使うのかとうことだ。たいがいこうしたことを聞くのは大手企業で、その相手もほとんどは同業の会社だ。
この日取材に行ったのは今回出展する大手食品企業だった。出てきた課長は顔馴染みだが取材などそっちのけで、コマの場所が気に入らないという話をする。確か自分が決めた場所だったはずだ。ところが、部長に見せたところ、同業の競合企業より場所が見劣りするといわれたようだ。
それで今さら場所を変えてくれという。変えてくれなければ出展を取り止めるとまで言い出した。展示会場のコマ割りは説明会で発表することになっている。発表してしまえば厄介だ。会場に電話したが、説明会はすでに始まっているという。編集長を呼び出して事情を話した。とりあえずコマ割り図の発表は止めることになった。
「何とか発表は止めました」と課長にいうと、助かったと両手を額の上で合わせ、拝むような形をした。
会社に帰ると3名が帰っていた。挨拶以外にイベント業者が取り仕切って、3名は挨拶以外にやることはなかったようだ。後日「お雛様のようにかしこまって座ってましたよ」と説明会に出席した企業の担当者から聞いた。
(ヘルスライフビジネス2017年3月1日号「私の故旧忘れ得べき」本紙主幹・木村忠明)