博士の指摘が的中で日本人の大腸がんが増加(79)

2024年3月5日

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さらに辻さんがバーキット博士にどのような繊維を摂った方が良いか聞いている。すると日本に合わせてか、次のように言っている。

「まずあまり米を精製しないことです。半分ぐらい玄米に近い形で食べる。そして食べる量を減らさない。それから、朝食に洋食を摂る場合には、卵やハムの代わりにシリアル(コーンフレークなどの穀物類)を食べる。それから肉はそれほど必要ありません」

さらに繊維は野菜や果物より穀物の方がかなり多いという。この頃サラダで食べるようになったレタスにはほとんど繊維がないとしている。

「ところで、棡原村では食物繊維をどの程度摂っていたか知っているか」と渡辺先生。棡原は以前今村光一と行った山梨の長寿村だった。その村の梅鶯壮という民宿で食べた長寿食を思い出した。粟や稗、黍などの雑穀と米を一緒に炊いたご飯、麦をおかゆのように柔らかく炊いた「お麦(おばく)」、ジャガイモの原種を油で炒めた「せいだのたまじ」、生のこんにゃくなど、どれをとっても我々が常日頃食べているものとは違った。この村の研究で知られた古守豊輔先生はこの長寿食を「穀野食」と呼んだ。確かにこの食事ならやたらに食物繊維が摂れそうだ。

「棡原ではだいたい30g以上の食物繊維を摂っていたらしい」
驚くべき量だ。しかし、昔の日本人の大半がこうした食事をして、大量の食物繊維を摂っていたのだ。ところが、この頃でさえ食物繊維を摂る量は減っていた。国民健康・栄養調査の数字で見ると、昭和22年頃には平均27g摂っていた。ところが80年頃にはすでに15.2gまでに減っている。

当時、国立栄養研究所(現・国立健康栄養研究所)の食品部長で印南敏という先生がいた。人柄がよい方で、取材に行くと無知な若者にも懇切丁寧に話をしてくれた。この先生は日本では数少ない食物繊維の研究者だった。聞くと「1日25gはいるでしょう」と言っていたのを記憶している。ところで今では国の食事摂取基準の目標量で成人は19g、男性で20g、女性で18g以上とされている。

知り合いの管理栄養士に聞いてみた。彼女は病院で栄養指導をしてきたベテランの栄養士で、当然ながら食物繊維のことはよく知っていた。「それがいくら工夫しても、今の食事ではとても25gなんて取れないのよ」という。それでこの食事目標に引き下げられたのだそうだ。国も現実的な対応をせざるを得なかったのだろう。

「ところが、今ではこの引き下げた目標量も取れなくなっちゃった」という。確かに成人の平均で14.3gしか摂っていない。しかも若い人ではかなり厳しい。20代では男性12.8g、女性12.5g、30代で男性13.7g、女性12.6gで、40代も似たり寄ったりだった。目標量に近いのは60代、70代の高齢者だけという惨憺たる有様だ。

これが大腸がんの増加と関係があると指摘する声は多い。ちなみに2012年に国立がんセンターが発表したデータでは、大腸がんに罹る率は男性で第2位、女性で1位、死亡率でも男性で3位、女性で2位になっている。

また、ある統計では1950年から2000年の50年間で、大腸がんの死亡者数は男性で10.9倍、女性で8.4倍に増加しているという。

バーキット博士が今の日本の現状を知ったら、「それ見たことか」というかどうかは分からない。しかし少なくとも1982年から35年間、日本人が博士の警告を守らなかったことは確かなようだ。

(ヘルスライフビジネス2017年7月15日号「私の故旧忘れ得べき」本紙主幹・木村忠明)

※第80回は3月12日(火)更新予定(毎週火曜日更新)

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