ヘルスケア対談(2):全国和菓子協会細田治会長(榮太樓總本鋪会長)×JAHI今西信幸会長

2021年5月12日

ヘルスケアと和菓子の融合で巻き起こる“ 甘味の再革命”

「糖分は体に悪い」は大いなる誤解、いかに正すかが課題

 今号で2 回目となった日本ヘルスケア協会(JAHI)・今西信幸会長の対談企画。今回は、創業200 年を超える東京の和菓子屋・榮太樓總本鋪会長と全国和菓子協会会長を兼務する細田治氏にご登場いただき、和菓子業界におけるヘルスケアビジョンを語っていただいた。近年、榮太樓總本鋪は健康ニーズに応える「からだにえいたろう」ブランドをスタートさせ、積極的にヘルスケア市場へチャレンジしている。「食と健康アワード2019」では大賞、「同2020」では優秀賞、見事2 年連続で受賞し、ヘルスケア業界からの注目度を高めている。これまでの榮太樓總本鋪の歩み、そして今後、和菓子業界および同社がどこへ向かうのか、ヘルスケアをいかに捉えているのか。両氏の対談は大いに盛り上がった。(月刊H&Bリテイル 2020年6月号より)

――榮太樓總本鋪さんは長きにわたって愛されてきました。創業200 年を超えていると聞いています。

細田治会長

細田会長 約200 年前に現在の埼玉県飯能市から私の先祖である細田徳兵衛が出てきまして、当時は瓦せんべいのようなものを九段坂で販売していました。その孫である安兵衛(幼名・栄太郎)が日本橋・魚河岸にて屋台で金鍔を売り始め、評判が高かったと伝えられています。

 その金鍔を手掛けて以来の当社の歴史を見ていますと「素材は絶対に選ぶ」ということをし続け、さらに高上りしないものを選ぶことで、より多くの方々に親しんでいただきました。
 菓子屋には「お茶事だけの商いで400 年」という企業もあり、格式が高い菓子屋を経営していくというのは、ある意味では菓子屋として名誉なことです。

 しかし当社は、本当の美味しさを提供しながらも、高上りをせずに、常に幅広いお客さまから可愛がられてきた菓子屋であり続けてきました。今後もその歩んできた道を大切にしていきたいと思っています。

――これまで長きにわたって日本の食文化に根差してきた和菓子ですが、「食と健康」を大切に考える“ ヘルスケア領域” で、どのようなニーズがあり、どのようなメリットを生み出すと考えられますか。

今西信幸会長

今西会長 日本という国は先進国の1 つですが、ヘルスケアにおいては後進国であり、その理由は、医薬品と食品それぞれを管轄する省庁が異なっているからだと位置づけています。これまで医療や医薬の世界は「治療がすべて。医療とは公的保険」という考え方でしたが、ここにきて「ヘルスケア(予防)を大事にしないと医療が持続できない」という経済問題が出てきました。
 治療の中心は医療技術や医薬品ですが、予防の中心は「食」になります。
 どちらかというと食はエネルギー補給という見方でとらえられてきました。それがこれからは、予防・病気にならないフレイル対策や介護など食の重要性が増しました。
 常に和菓子には「甘味は体に悪い」という誤解が付きまとっていますが、これは大きな間違いです。

 例えば、コレステロールがなければ人間は生きることができませんが、「ありすぎてはいけない」という概念がないため悪者扱いされています。もちろん糖分は摂り過ぎてはいけませんが、脳を動かすためには必要不可欠です。
 現在エビデンスを元にこうした情報を発信する人がいません。ですので日本ヘルスケア協会は学会を立ち上げ、「これから予防の中心は食品であり、糖分の摂取については、体にも心にも大きな役割を果たす」ということを啓発していこうと考えています。

細田会長 私も同感です。特に患者さんに対し「あなたは甘いものを食べられない」と宣言するドクターがいます。 しかし、これは大きな間違いであり、和菓子においては工夫することで過剰摂取を防ぎながら生活に取り入れることができます。確かに、今までの「単に美味しく」という観点でつくられた菓子と比べると、物足りないと感じる部分はあるかもしれませんが、それでも十分に美味しいものをつくる技術を我々は持っています。
 患者から「美味しい和菓子を食べて、食への喜びを感じる」という精神的な楽しみを奪うことが正しい医療であるとは思えません。

――和菓子業界はヘルスケアに向け、どのように取り組んでいますか。

細田会長 1 つ例を挙げると小豆の研究です。小豆はポリフェノール含量が高いだけではなく、消化する前に体外に排出される「難消化性」という性質を持っています。

 小豆のようにヘルスケア的な切り口の個性を備えている原料を医学としてどのように考えているのか。現在全国和菓子協会では、小豆が持つ難消化性をどのような形で数値化していくかという研究を行い、きちんとエビデンスを取っていくことで、ドクターにも工夫をしながら患者に指導してもらえるような環境をつくりたいと考えています。

今西会長 糖を摂り過ぎてはいけませんが、絶対に必要な栄養成分ですので、摂るべきなのです。一般消費者とアスリートなど特殊な職業の人を一緒くたにせずに、エビデンスをもとに「あなたにはこれだけ必要ですよ」という線引きをしていく時代になっています。
 どんな業界にも言えることなのでが、どんなに画期的な技術や製品があったとしても、作り手側がそれを「素晴らしいもの」と言ってしまうと我田引水になってしまいます。
ですから、日本ヘルスケア協会はヘルスケアに関わる幅広いカテゴリーにおいて、きちんとしたエビデンスを持って、世間に向けて「これは素晴らしいもの。活用して予防に役立てよう」と堂々と言えるようなスキームを作っていきたいと思います。
 先ほど細田会長が話された小豆のエビデンスについても、もちろん応援しますのでぜひ情報共有をしていきましょう。

細田会長 当社も含め、和菓子業界は“ 甘いもの離れ”が進んでいる現在、ヘルスケアに対して目を閉ざしていられない状況となってきています。

 その中で、“ 医食同源”という言葉が大事になってくるでしょう。それは精神的な意味も含めて「食べて健康に」という前向きな姿勢を持つことで菓子屋業に可能性が出てきます。いかに医学的な健康と精神的な健康をかみ合わせていくか、全国和菓子協会としては強く声を上げていかないといけません。

世界に向けて大きなポテンシャルを持つ

「世界最長寿国の和菓子」

――和菓子業界からの視点では、ドラッグストア市場はどのような存在でありますでしょうか。また「からだにえいたろう」ブランドについて、どのような展望をお持ちですか。

細田会長 近年ドラッグストア市場は大きく成長しています。当社もヘルスケアニーズに応えられるブランドとして「からだにえいたろう」を立ち上げました。まだ売り上げは限定的ではありますが、「からだにえいたろう」は、一気に売り上げ拡大を目指すのではなく、市場に潜在するニーズをきちんと汲み上げることで、じわーっと時間をかけて裾野を広げていきたいというビジョンを持っています。

 実は「からだにえいたろう」のスタートに火をつけたのは、私ではなく細田将己副社長です。元々社会的に弱い立場の方々に向けてのビジネスをしたいと漠然とした思いがあったのですが、このような形で「ぜひやりたい」と話をされたときは「大丈夫か?本当か?」と(笑い)。

 最初から諸手を挙げてGO サインを出したわけではありませんでしたが、私は常に副社長を含めた経営幹部に「市場の変遷をきちんと見極め、お互いがWin-Win となれるベストパートナーを見つけ出すこと」と話しており、その1 つがドラッグストアであると位置づけています。

「食と健康アワード2019」大賞の「からだにえいたろう 糖質をおさえたようかん」(左)と「同2020」優秀賞の
「からだにえいたろう エナジーようかん」(右)

――ヘルスケア領域にチャレンジする和菓子の老舗。このようなメーカーの動きをどのように捉えておりますか。

今西会長 とても素晴らしいことだと思います。何となく糖質が悪者にされている昨今、私は“ 甘味の再革命” が必要だと考えています。
 体には「科学的成分上の良いこと」、心には「気持ちを元気させるための良いこと」、頭には「脳を動かすために良いこと」と、和菓子はその適応力を持っています。世の中にはたくさんの食品があるものの、実は「心に良い」というものは多くありません。それは日本の食文化に長く根差してきた歴史が生きているのだと思います。
 また、和菓子はもっともっと世界に発信していくべき日本文化だと思っています。今日、日本食が世界的ブームを巻き起こしています。それは単に美味しいのではなく「最長寿国に成功した日本の食文化」であるからです。

 それは和菓子にも同じことが言え、「世界最長寿国の甘味」として打ち出していけば、かなり大きなポテンシャルを持っていると思います。その際に正しい甘味との付き合い方を世界に示していくことで、日本における理解も深まっていくことでしょう。


細田会長 毎年、全国和菓子協会では職人の技術を評価するコンテストを開催しているのですが、日本の菓子屋に勤めているフランス人の女性が応募してきました。残念ながら佳作で終わってしまったのですが、その方と話していると日本人よりも和菓子のことを深い部分で理解していることが分かりました。
 特にフランス人は食に対してアグレッシブな部分があり、「フランス人は日本食だけではなく、和菓子にも興味を持っている」と教えてくれました。このことは全国和菓子協会の会長として非常に嬉しかったです。
 今後はぜひ「体・心・頭に良い」というヘルスケアの切り口も含めて、和菓子を世界に向けて発信していきたいと思います。


――ありがとうございました。