カリフォルニアはオーガニックの生産が盛ん(55)
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翌日、バスでサンフランシスコ湾東岸のバークレーに向かった。ここには米国西海岸を代表するスタンフォー大学と並ぶ名門として知られるカリフォリニア大学バークレー校がある。原爆を生み出したマンハッタン計画の主導者した科学者オッペンハイマーらを輩出した大学だが、今ではITやコンピュータ産業のメッカのシリコンバレーが近くにあり、コンピュータ工学では全米1位の大学だそうだ。
しかし私たちが訪ねた1981年は、アップル社が公開した翌年に当たり、マイクロコンピュータの産業はまた揺籃期で、日本ではほとんど知られていなかった。
「とにかく大学があるので、この町は米国でも有数の知的レベルが高いところです」と現地のガイドが話を始めた。
米国はどこでもそうだが、郊外の住宅地は街並みが美しく整然としている。十分な敷地に瀟洒な家が立ち並び、芝生で囲われ、街路樹も整然と植えられている。
「こんな家でいくら位くらいするんだろう」と誰かが言い出した。すると日本の住宅地より少し高い程度の金額だという。
「同じお金なのにずいぶん違うなァ」とため息交じりだ。この人の住まいは東京郊外の八王子だという。しかも駅前からバスに乗る。着いた家はせせこましい建売住宅で、まだロ-ンが残っているとぼやく。そうしているうちにバスが自然食のお店の前についた。この店の入り口近くには大量の野菜が並べられていた。
西海岸のカルフォルニアはオーガニックの農産物の生産が盛んだ。それには理由があると富田さんはいう。どうも砂漠が関係しているらしい。草木一本生えないのが砂漠のはずだ。水がない以上人も住めない。確かに昔のカルフォルニアは砂漠が多く人の住めるような場所ではなかったようだ。当然だがロサンゼルスもほとんど雨が降らいない。それでコロラド川を堰き止めてフーバーダムを造った。これによって出来たミード湖を水源にしてカリフォルニアの広大な乾燥地を潤し、農業ができるようにした。元来砂漠のような乾燥地だから、ちょっとした草むらまでスプリンクラーで水を撒かないと、たちどころに枯れてしまう。これがカルフォルニアというところだが、オーガニックの農産物にはうってつけの環境らしい。
「砂漠の中に水を引いて来れば、簡単に有機農業ができる」という。
砂漠には緑がないので、虫が来ない。虫が菌を運んでくるので、農作物は虫にも食われないし、病気にもならないというわけだ。
店を見学しているうちに不思議なものを見つけた。ニカラグアのコーヒーだ。この年2月に発足したレーガン政権はソ連の支援を受けた中米のニカラグアの反政府組織に肩入れして、いわばニカラグアソモサの政権とは戦争状態になっていた。
「どうして国交を断っている国の製品が店にあるの?」
するとガイドから思いもしない答えが返ってきた。市民投票でニカラグアと交易をすることが決まったという。それでは国と市の方針が違うことになるが、それでも市長は市民のいうことを聞く義務があるんだそうだ。聞かなければ首だという。「それで国とバークレー市とは戦争状態というわけです」と笑う。米国の民主主義の一端を垣間見た気がした。
バークレーに来たついでに大学に寄って、生協でお土産を買った。フットボール部のネクタイで、紺の地に金の糸でレジメンタルのデザインがされ、クマの足跡のマークが付いている。金の糸がほつれたが、今でも洋服ダンスに大事にしまってある。
(ヘルスライフビジネス2016年7月15日号「私の故旧忘れ得べき」本紙主幹・木村忠明)