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Health Claimってナニ?(192)
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「これなんですかねエ」
米国のサプリメント専門誌のニュース欄の見出しを指して言う。中村るいが翻訳のアルバイトを始めて少し経った頃だった。見ると「health Claim」と書いてある。聞いたことがないフレーズだ。しかし彼女はこの言葉を他の雑誌でも見たと言う。
Healthは健康だが、Claimは聞いたことない。それで辞書を引くと「主張する」と言う意味があるようだ。だからこれを合わせると「健康の主張」となる。しかしなんだか意味が分からない。彼女も同じで「どう訳したらいいのか」と困った顔をしている。
ただし、文章を読むと何となく意味することは分からないでもない。彼女も企業が健康について主張していることを言っているようだと言う。
健康食品の会社が自分の製品について健康に良いと主張したがるは洋の東西を問わない。ただ米国でも効果を言うと薬事法違反で規制の対象になる。それで行政と業界の間で諍いが絶えない。これは米国ばかりでなく日本でも同じだ。
すると彼女は「なぜなんですか」と聞く。一般の人なら誰でも抱く疑問だ。しかし翻訳するには業界の置かれた規制の現状を知ってもらい必要がある。それで日本の薬事法や46通知について話した。彼女は興味深そうに聞いていたが、健康食品の規制は米国でも似たり寄ったりだと言うと「なぜですか」と言う。理由は簡単だ。日本の薬事法が戦後に米国の「食品・医薬品・化粧品法(FDCA)」の薬の箇所だけを翻訳したもので、ほぼ文章も一緒だから規制もほぼ同じだと言うと、少々驚いた様子だった。しかし他の法律でも同じようなことがあるのかもしれない。なんといっても戦争に負け、占領されたわけだから…。
「それにしても薬の法律で食品が取り締まられるとは不思議ですね」と言う。率直な考えだとは思う。しかし取り締まる方は健康食品が効果を言うと薬と間違える。そして病院へ行かなくなり、さらに病気を悪化させる恐れがあると主張する。だから効果を言ってはいけないという理屈になる。予防など眼中になく、あくまで医療が中心である。
「ところで、ヒポクラテスって知ってるかい」と言うと彼女は頷いた。そして古代ギリシアの医者だと言う。さすが古代ギリシアの美術史を研究しているだけある。
ヒポクラテスは紀元前460年にエーゲ海に浮かぶコス島で生まれたといわれる。ギリシアの中心都市ラリサで370年頃に亡くなるまで、ギリシアの様々な場所で治療に当たった医聖と言われる。彼の存在が伝わったのは死後100年あまりしてヒポクラテス派の人々によってまとめられた『ヒポクラテス全集』のせいだ。彼はそれまで呪術的だった医学を、臨床と観察を重んじる経験科学に変えたことが最大の実績と言われる。今でも医師の倫理性と客観性を述べた「ヒポクラテスの誓い」と言うのが知られている。
「彼は今の医学の父だと言われているが、今の医者は全く逆のことをしている」と言うと「本当ですか」と怪訝な顔をしている。そこで古代ギリシアでは病気は何から起こると思っていたかと聞くと、分からないと言いう。そこで以前本で読んだ受け売りだが、ヒポクラテスの医学についてかいつまんで話した。ヒポクラテス以前には病気は神々の与えた罰だと考えていた。ところがヒポクラテスはそうは見なかった。環境、食事、生活習慣から起こるとした。つまり治療はこれを正して、人が生まれながらに持っている自然治癒力を生かすことで行なう。
「ごく全うな考え方であり、我々の考え方と同じなんだ」と言うと、自然治癒力とは何かと言う。さて困った。どういうふうに説明したら分かってもらえるものかと思っていると、そこへ葛西博士が通りかかった。
「なに言ってるの。自然治癒力とは免疫のことだよ、免疫」 明快である。もちろん免疫機能という自己防御能力だけでなく、負った傷を治すような人の身体がもともと持っている自己再生能力も含まれているそうである。さすが博士だ。彼女も「何となくわかります」と納得した様子だった。
(ヘルスライフビジネス2022年4月1日号「私の故旧忘れ得べき」本紙主幹・木村忠明)