生きていたら感想を聞いてみたい(206)

2026年8月11日

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この対談から10年ほど経った頃、『日本食生活学会誌』に載った内藤博博士の論文に興味深い文書を見つけた。内藤さんはこの頃、東大農学部の教授を退官して、共立女子大学家政学部の教授をしていた。そしてカルシウムの吸収を高める機能性成分のCPP(カゼインホスホペプチド)の研究で知られていた。

論文の中で内藤さんは高齢化が進む中、半病人や半健康人のカルシウムなどの栄養補給について説明している。この頃、カルシウムの成人の栄養所要量では1日600㎎とされていた。

これを内藤さんは「集団としての基準であって、個人個人の必要量とは異なった基準の上に立っていることはいうまでもない」としている。これはそれまでの栄養学者がめったに言わないことだった。

また「充足率の調査結果から、所要量を満たしている人口割合は30%程度に過ぎない」としている。この栄養所要量の充足率を調べている国民栄養調査である。これによると、カルシウム摂取は7割の人が足りていないか欠乏状態にあることになる。

さらに内藤さんは言う。この量は半健康や半病人といった個々の人の必要を満たす量ではない。こうしたことを考慮して米国を例にして、1日800㎎の所要量に対して1000㎎から1500㎎が適当であると指摘している。

これはカルシウムの話だが、ビタミンCや他の美朝栄養素でも似たようなことが考えられる。栄養摂取は「集団」から「個々」の必要量を考慮しなければ健康を守れない時代になっていた。この自覚が日本の栄養学者にはなかった。

さて対談は続いて、病気とビタミンCの話になる。鈴江さんは風邪への効果で、「米国やその他の実験結果をいくつもみたが、効く、効かない、と評価はまちまち」として、「米国国立衛生研究所も否定している」と付け加えた。

ポーリング博士は、対立する結果があることは認めながらも、私どもの研究では有効だったとして、「(風邪に)かかる回数は減らせなくとも、かぜを軽くはできる」と言う。するとどうしたことか鈴江さんは「Cよりも、かぜ薬を飲む方が良くはないか」という。病気からの健康への復帰は栄養の役割ではないのか。

対談はさらにがんへのビタミンCの効果に移る。ポーリング博士の研究では末期がんの患者に1日10gのビタミンCを与え延命効果を示した。それに対して鈴江さんはメイヨ―クリニックのやった類似の研究を持ち出して、がんには効かなかったと主張した。

ところが論文を比較するこの2つの研究にはビタミンCの投与の仕方で決定的な違があった。ポーリング博士は経口と点滴の両方を投与したのに、メイヨ―クリニックの研究では経口でしか投与していない。経口投与では血液中ビタミンC濃度は200マイクロモル未満にしかならない。

しかしポーリング博士の研究のように静脈内点滴をした場合には、経口の25倍以上高いほぼ6ミリモルの血漿濃度なることが、2000年代に国立衛生研究所(NIH)の研究者のマーク・レビン博士らのグループによって明らかにされている。

そしてレビン博士らは2005年に「薬理学的アスコルビン酸濃度が癌細胞を選択的に殺す:過酸化水素を組織に送達するためのプロドラッグとしての作用」という論文を発表した。

この論文で高濃度のビタミンCのことを薬理的濃度(Pharmacological Concentrations)と規定している。これが静脈で点滴投与するレベルのビタミンCががん細胞を殺すこと、また正常細胞に影響がないこと、さらにがん細胞を殺す理由を明らかにしている。

研究では10個のがん細胞と4個の正常細胞を高濃度のビタミンCの液に1時間漬けて行われた。この結果、20ミリモルと言う高い濃度になっても正常細胞は何ら影響を受けなかった。しかし、この量はがん細胞だけを選択的に殺すことが分かった。このことをポーリング博士はすでに知っていたのだろう。

ポーリング博士も鈴江さんもすでにこの世にいない。生きていたら感想を聞いてみたいと思う。その時、どんな顔をするだろうか。

(ヘルスライフビジネス2022年11月1日号「私の故旧忘れ得べき」本紙主幹・木村忠明)

※第206回は8月18日(火)更新予定(毎週火曜日更新)

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