Supplement の可能性② 米国で進むがんの統合医療

2021年12月2日
Supplement の可能性② 米国で進むがんの統合医療

Supplement の可能性②
米国で進むがんの統合医療

食物繊維が 「オプジーボ」の効果を高める!?イヌリンのサプリメントに国が研究予算

 がん治療に新たな時代を開いたとして注目される「オプジーボ」など免疫チェックポイント阻害剤の効き目に、腸内細菌叢が大きな役割を果たしていることが明らかになってきている。抗がん剤が効いた患者の糞便移植した患者で抗がん剤が効く一方、食物繊維を多く摂っている患者の免疫チェックポイント阻害剤の効き目が高まることが明らかになりつつある。なかでも水溶性のイヌリンを投与した患者の腫瘍根絶の速度が2 倍になる可能性があり、国も研究予算を割いて研究を進めている。がんの統合医療の最先端の状況を報告する。

 糞便移植が抗がん剤の効き目に影響

 前回書いたニューヨークの統合腫瘍学会(SIO)の第16 回の国際会議で、もう一つ注目されることがあった。抗がん剤の効果のあった人の腸内細菌をがん患者に移植すると、この抗がん剤の効き目が高まるということだ。
 これに関連して学術誌『サイエンス』のスタッフライターのジョセリン・カイザーが、アメリカ癌学会 (AACR)の年次総会で紹介された進行中の研究を明らかにした。これによると、免疫療法の薬が効かなかった患者に、薬が効いた患者の便サンプルを投与したところ、がんの成長が止まるか、縮小することもあることが示されたと言う。
 この糞便移植は頑固な結腸感染症(偽幕性腸炎、院内感染の菌など)の治療に使われているが、がん治療に使われたのはこの研究が初めてのケースとなると言う。
 これについてMD アンダーソンがんセンターのメラノーマ(黒色腫)の研究者ジェニファー・ワーゴは言う。「腫瘍免疫と場合によっては反応させ影響を与える可能性を示す最初の臨床的証拠である」と。そしてこれには抗がん剤として注目を集める免疫チェックポイント阻害剤も含まれる。

 食物繊維が免疫チェックポイント阻害剤の効果を5 倍に

 免疫チェックポイント阻害剤は2018 年に京都大学の特別教授本庶佑博士がノーベル医学・生理学賞を受賞したことで知られる「オプジーボ」もその一つだ。
 博士は免疫細胞の表面にPD-1 と言う蛋白質があるのを発見した。この蛋白質は免疫系が病原体などと闘う能力を遮断するが、がん細胞はこのPD-1 を刺激して免疫細胞から逃れる。免疫が働かなくなるのだ。この働きを防ぐ薬が免疫チェックポイント阻害剤だが、本庶佑さんがこの開発に成功して、がん免疫療法に新たな治療の道を開いたのが受賞の理由だ。
 この薬は他にも数類が出ているが、どれもメラノーマ(黒色腫)、非小細胞がん、腎臓がんなど限られたがんで効き目はあるが、その効き目は2 割から3 割だと言われている。この効果が高まればがん治療はさらに進むことになる。

 プレバイオ投与で効果を高める研究進む

 糞便移植とは別にプロバイオティックやプレバイオティックスで腸内細菌叢を介して、免疫チェックポイント阻害剤の効果を高めようという研究も進んでいる。とはいえ今のところプロバイオティクスはどうもがん治療の良い結果につながらない可能性がある。
 サンフランシスコのパーカーがん免疫療法研究所(PICI)の研究によると、黒色腫の患者に市販のプロバイオティックスのサプリメントを投与した結果、免疫チェックポイント阻害剤を使った治療の効果を70%下げたという。プロバイオティックスが腸内細菌の多様性を下げることと関連していると言うことが理由だと言う。
 これを裏付けるMD アンダーソンがん研究所の論文が2018 年に出ている。これでもこの薬の良い反応は腸内の多様な微生物だとしている。さらにその中でもルミノコッカス属が良い働きと関係があり、逆にバクテロイデス属が悪い結果に関連しているようだ。
 このルミノコッカス属は難消化デキストリンなど水溶性食物繊維を分解して免疫に関係した短鎖脂肪酸を作る働きがあり、逆にバクテロイデス属は動物性蛋白質や脂肪を摂取する人に多い。
 このため高食物繊維を摂っている患者は免疫チェックポイント阻害剤の効き目が、そうでない人と比べて5 倍高いことが分かっている。繊維の多い穀物が豊富な食事をしている患者は免疫チェックポイント阻害剤に良い働きをする腸内細菌が多く、加工肉と砂糖の多い食事の患者は良い働きをする菌が少ない。

NIH のHP 画面 (https://www.nibib.nih.gov/news-events/newsroom/making-microbiome-moreamenable- cancer-immunotherapy)。イヌリンゲルと免疫チェックポイント阻害剤の併用治療の 実験結果も報告されている

 イヌリンサプリメントが効き目を2 倍に

 この食物繊維のなかでもイヌリンが注目されている。イヌリンはキクイモやゴボウ、チコリの根などに豊富な水溶性食物繊維で、サプリメントとして発売されている。このイヌリンのジェルのサプリメントを使った研究が、米国のミシガン大学で行われている。研究は薬学部准教授のジェームズ・ムーン博士らのグループで、ネズミの実験で結腸がんに、免疫チェックポイント阻害剤のみとこれにイヌリンを加えた場合を比較すると、イヌリンを加えたグループで腫瘍を根絶する速度が2 倍になることが明らかになっている。さらに胆がんマウスでもイヌリン投与すると免疫チェックポイント阻害剤に良く反応した有益な腸内細菌の拡大と増加がみられたという。
 今年9 月にこの研究が国立生物医学画像・生物工学研究所(NIBIB)の予算で行われていることが、国立衛生研究所(NIH)のホームページで紹介され話題となっている。
 近い将来、ゴボウやキクイモなどのサプリメントが普通にがん治療に使われる時代になるかもしれない。
                                      (当社主幹・木村忠明)