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ひたすらテニス道を究める夏休み(194)
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8月10日土曜日の午後、中軽井沢の駅に着いた。曇り気味で、あまり天気は良くなかった。軽井沢なのに思ったより湿度もあった。駅には夏休みを過ごしに来たのであろう、若い女性の姿が目立った。
「おい、奇麗なねえちゃん、ねえちゃん」と私がその方を指すと、土井君は「テニス道、テニス道」と呪文のように唱える。何はともあれ真夏の軽井沢に来て、うきうきした気分になった。
宿泊先の民宿に着いたのは昼過ぎだった。着いてすぐに後悔した。もう少しマシな、例えば最近流行りのペンションにでもしておけば良かったと悔やんだ。食堂兼座敷には体育会系のむさ苦しげな男たちが寝転がっている。聞くとM大学のテニス同好会だと言う。どうもこの民宿では同宿の女性と知り合うことは期待できない。多少お金が掛かってもやはりペンションにでもしておけばよかったと思った。しかしもうあとの祭りである。
女性誌の『an an』と『non-no』が人気となって、ここで紹介されているファッションが女子大生やOLの間で流行っていた。いわゆる“アンノン族”と呼ばれたが、この女性たちを旅に誘う国鉄のキャンペーンが人気となっていた。この雑誌を持った女性たちが清里や軽井沢にやっていることが話題となった。
山口百恵の「いい日旅立ち」の歌の国鉄のコマーシャルがテレビから盛んに流れた。それが前の年からは郷ひろみの「エキゾティック・ジャパン」に変わった。こうしたなか欧州のメルヘンチックな民宿のペンションが人気を呼んでいた。しかし我々は男二人でメルヘンチックもない。それで、テニスコートさえあればと言うことでごく普通の民宿となったわけだが、今さらぼやいても仕方がない。
翌朝、食堂に来てみると、やはり男ばかりだった。定番の野沢菜の漬物と焼き海苔、アジの干物にみそ汁で、ご飯を2杯かっ込んで、朝食もそこそこにテニスコートに向かった。
この辺りには民宿が契約しているコートがいくつかあった。指定された場所に行ってみると、森に囲まれた場所に3面のコートがあった。左端のコートが我々のコートである。しばらく打ち合っていると、もう一組の男のペアーがやってきた。二十代前半のようで学生かもしてない。「こんにちは」と挨拶するし、球が我々のコートに入ると、「すいません」と言いながら取に来て、ぺこりと頭を下げる。何となく好感を持った。しかし、しばらくすると、この印象が180度変わることになった。
30分もすると3つ目のコート、つまり爽やかなお兄ちゃんたちのグループの、さらに向こう側のコートに二十代半ばくらいの2人のお姉ちゃんがやってきたのだ。一人は長い髪に日に焼けた肌が白いテニスウエア―に似合った美形の子。もう一人は背が小さいがショートカットの髪にブルーのシャツとサンバイザーが似合う。
汗をかいたのでベンチで休みながら「どっちがいい」と聞くと、土井君は「髪の長い方」と言う。それで仕方なく「俺はブルーにシャツの子」と言うことした。しかしどうにも真ん中のコートの男たちが邪魔で、お姉ちゃんたちと話すことが出来ない。
「隣だったら、ダブルスでもしませんかと言うんだけどなあ」と土井君が言う。さすが学校でテニスをやっているだけあると感心した。テニス合宿を名目に学校の先生たちであちらこちらに行っているから、結構うまくやっているに違いない。テニス道も何もあったものではないと思っていると、人が思うことは誰でも同じだ。真ん中のコート連中が隣の女性に声をかけている。そしてダブルスでやり出した。
「ちくしょう」と思ったがあとの祭りだ。それで昼食を食べに、早々に切り上げて宿に帰った。午後はどうしたわけか、我々だけだった。あいつらうまくやっているんだろうなあと思いながら、30歳を超えた2人のオヤジは、ひたすら“テニス道”を究めるしかなかった。
(ヘルスライフビジネス2022年5月1日号「私の故旧忘れ得べき」本紙主幹・木村忠明)
※第195回は5月26日(火)更新予定(毎週火曜日更新)