ピンク・レディーがウーロン茶でダイエットブーム起こす(2)

2022年9月20日

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私が業界紙の職に就いた1979年はウーロン茶が大変なブームになっていた。ウーロン茶と言っても最高級な鉄観音という銘柄のものが持てはやされていた。なぜウーロン茶が健康食品なのかと今の人は思うかもしれない。しかし当時、多くの人はこれがダイエットに効くと信じていた。

デパートに健康食品の売り場はすでにあったが、ここで鉄観音茶は飛ぶように売れた。その頃の健康食品の市場が800億円程度しかなかったことを考えると、ウーロン茶だけで200億円ほど売れたのだから、業界にはにわか成金ではないが、急成長した企業が相次いで生まれていた。

このブームは思いもしないことから起こった。ピンク・レディーというデュオのアイドルいた。前年に『UFO』でレコード大賞を受賞して人気の絶頂にあった。このピンク・レディーがテレビのインタビューで痩せている理由を聞かれた。「ウーロン茶を飲んでいるから」と言ったことがすべてだった。

背景に飽食の時代があり、身の回りにも肥満が目立つようになっていた。一昔前に裕福の象徴だった肥満は不健康の代名詞となり、美容の敵ともみられるようになった。やせ願望が芽生えて、女性週刊誌などが特集を組み、ダイエットを盛んに煽るようになった。この時期が健康食品の第1次ダイエットブームに当たる。この始まりがウーロン茶だった。

同じ時期にもう一つのダイエット食品も売れていた。グルコマンナンだ。「マンナライフのコンニャクバタケ~ェ」とのテレビ宣伝を知っている人は多いが、マンナンライフが登場したのはこの頃だということを知っている人は少ない。今はゼリータイプだったが、その頃は粉末を三方シールに包んで、箱に入った典型的な健康食品のタイプの製品だった。ところがテレビで宣伝し、スーパーマーケットに山積みして売っていた。薬局でも販売していたが、他社の製品で、大手製薬会社もブームを当て込んで出していた記憶がある。この年の市場規模は100億円くらいだったから、ウーロン茶と合わせると市場の30%近くがダイエット食品の売り上げだったことになる。

取材でブームに沸く問屋にいった。新宿から小田急線に乗って、千歳船橋駅で降り、線路伝いに経堂駅に戻る途中にジャパンヘルスという会社があった。森谷健康食品という業界の大手問屋の関連会社で、地方の百貨店やスーパーマーケット、ドラッグストアへの卸をしていた。広報を兼務していた営業部長の緑川さんに会うと、ほくほく顔とはこういうものかという表情をしている。

「いやァ~。売れて、売れて、商品が間にい合わないョ」

テレビで放送されて以降、デパートの健康食品売り場にお客が殺到したらしい。一時は欠品状態で、メーカーは中国に飛んで、原料をかき集めているという。

出された温かい鉄観音茶を飲みながら疑問に思っていることを聞いた。

「本当にウーロン茶でダイエットできるんですか」

 「ウ~ン。そこのところが何とも言えないところだねェ」

確かにピンク・レディーは痩せているが、売れっ子で寝る暇もないらしい。痩せて当然と言えば当然だ。ウーロン茶は食べ物の油を流す効果があるというのが業者の説明らしい。何よりもの証拠というのは、ウーロン茶を飲んでいる中国人は痩せていることだ。

「貧しいから痩せているという話もある」

売ってはいるが根拠がどうも良くわからないので、メーカーを聞いてみろという。

それで鉄観音本舗の社長に聞くと、「中国では痩せると言われている」というのみで、やはり科学的データはなかった。

※第3回は9月27日(火)更新予定(毎週火曜日更新)