日航機は軽井沢の南に墜落した(195)

2026年5月26日

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翌日もテニス三昧だった。3日目には完全に飽きた。このシーズンだから何かイベントでもないかと民宿のオヤジさんに聞いた。すると、「来生たかおのコンサートがあるはず」と言う。

来生たかおと言えば、若い世代に人気のミュージシャンで、当然我々も知っている。というのも数年前には薬師丸ひろ子の「セイラー服と機関銃」と言う歌が大ヒットしたが、作ったのは来生たかおだったことは広く知られていた。

自身もそれを「夢の途中」と言うタイトルで歌っていた。最近では「シルエット・ロマンス」が大橋純子の歌で大ヒットしていた。それがOLの間で流行っている恋愛小説のレーベルのCMに使われ、話題を呼んでいた。その来生のコンサートならば、ファンのおねえちゃんがわんさと押し掛けるはずだ。これはチャンスだと思ったが、その期待はあえなく消えた。

「いやァ、残念だね。コンサートは土曜日だったよ」

場所は軽井沢プリンスホテルで新日本フィルとの野外コンサートだそうだ。とはいえ5日先では致し方ない。我々は明日には東京へ帰らなければならないのだ。

がっかりである。それでせめて美味しいものでも食べようと言うことになった。だがこれと言って当てがあるわけではない。それで昼前に軽井沢銀座まで足を延ばして、美味そうな店でも探そうということなった。

ところが土井君は食べ物に煩い。あれは好きじゃない、これは不味そうだ、あの店は騒がしそうだと、一向に決まらない。そうするうちに土井君が万平ホテルに行こうと言い出した。万平ホテルと言えば良く知られた高級ホテルである。ビートルズのジョン・レノンが奥さんのオノヨーコとよく行っていたと聞いたことがある。そこのレストランで食事をしようと言うのだ。ちょっとビビった。

「高いんじゃないの」と言うと、ランチならそんなにしないだろうと言う。財布の中には1万円あった。それだけあれば平気だよと言う。ホテルのレストランでメニューを見ると、確かに驚くほどの値段ではなかった。ハンバーグを注文したあと、何気なくの隣のテーブルを見て驚いた。同じテニスコートでやっていた女性たちがいるではないか。すると向こうもこちらに気付いた。そして私に向かって軽く会釈をした。一言も話していないのによく覚えていたなあと思った。しかしそれよりなんかツキが回って来たとやたらにうれしくなった。

「お客さん、お客さん。電話だよ」とオヤジの声で目が覚めた。夢とはいえこれからっていうときだったのに残念だった。実際は万平ホテルにも行かずに、どうって言うことのないレストランでハンバーグを食べ、再び民宿に帰って来て昼寝をしたのだ。当然、女性になんて会っていない。

オヤジに促され、電話に出ると会社の吉村君からだった。仕事柄で緊急に備えて、休みでもいつでも連絡が付くようにしている。

要件が終わて、時計を見るとまだ3時だった。「行きますか」と言うと、土井君もそれに応じた。どうせ今日が最後だと、テニスコートに出かけた。

宿に帰ったのは6時過ぎだった。風呂に入り、7時過ぎに夕飯を食べて、くつろいでいた。「お客さん、電話だよ」とまたオヤジが知らせに来た。また会社からかと出てみると、彼女からだった。今年春に結婚するはずだったが、事情があって別れた。半年ぶりだったが、もう一度やり直したいと言う。嫌いで別れたわけでもない。それでとにかく帰ったらまた会う約束をした。そして翌年結婚することになる。

電話を切ろうとすると、「ところで飛行機の行方が分からなくなって、テレビで騒いでいる」と言う。部屋に帰ると確かにテレビで羽田発大阪行きの日航機が消息を絶っていると言うニュースが流れていた。翌日、民宿のオヤジによると、昨夜南の空の方がどうも明るいと知り合いが言っていたそうだ。その通り軽井沢の南にある御巣鷹山に墜落した。

(ヘルスライフビジネス2022年5月15日号「私の故旧忘れ得べき」本紙主幹・木村忠明)

※第196回は6月2日(火)更新予定(毎週火曜日更新)

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