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小冊子の末路はまるで“馬糞の川流れ”(210)
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この間の厚生省の動きを整理する。薬の部局である薬務局は相変わらず薬事法の指導マニュアルの46通知での取り締まりを繰り返していた。
一方、これとは逆に2年前から食品の部局である生活衛生局は食品としての健康食品の位置付けに乗り出した。それまで食中毒などの衛生分野の取り締まり一辺倒だった食品衛生課を、組織令改正して食品衛保健課にした。つまり安全だけでなく国民の健康にもウイングを広げたのである。
そしてそこに健康食品を含めることになった。もちろん是々非々だが、そのため健康食品対策室を設置、健康食品をふるいにかける規格基準を定めるために財団法人日本健康食品協会を認可した。
こうした中、そこに割って入ってきたのが健康増進栄養課である。ここは栄養政策を取り仕切っている部署である。ところが、この部署では栄養摂は食事を通じておこなわなければならないと言う信念を持っていた。点滴による栄養補給は病者が対象だが、一般人のためには食事である。このイデオロギーのもとに栄養指導しているのが栄養士であると言ってもよい。
だから単味の栄養素を錠剤やカプセルで摂る健康食品の存在そのものが、あってはならないことになる。だからこれを否定するために作ったのが、前年1985年からこの年にかけて出した健康食品の品目別の小冊子のシリーズなのである。
出したのは健康体力づくり事業財団と言う公益法人だったが、監修責任者はこの時期栄養政策の“大親分”の東京大学医学部の教授で、いわゆる“御用学者”の細谷憲政で、健康増進栄養課が厚生省の天下り先の外郭団体に依頼して作らせたのだ。
指導者用として3万部をつくり、全国の保健所、市町村の保健センターの栄養士、保健婦用に配布した。さらに一般用と称して各30万部、つまり最初に10種の冊子を作ったから、300万部が全国で配布されたことになる。この影響は大きかった。それでなくても食事で十分だと信じている栄養士にとっては「それ見たことか」となったことは、想像に難くない。あんなもの必要ないと言う偏見を植え付けるには十分だった。
その影響が出始めたこと、遅まきながら業界もこの冊子に文句を言う動きが出て来た。12月には業界団体3団体、つまり全健協(全日本健康自然食品協会)、健食懇(健康と食品懇話会)、薬健研(薬業健康食品研究会)は、財団法人日本健康食品協会(日本健康・栄養食品協会:日健協)を通じて、発行元である健康体力づくり事業財団に宛てに善処するよう要望書を提出している。この頃は日健協も行政に対して、言うべきことはちゃんと言ったのである。
要望書には「『指導者用』と『一般用』の内容について表現に差異があり、情報に偏りがみられ、(中略)ややもすると消費者に誤認を与えかねない」、「正しい知識の普及に努力して頂くとともに、(中略)問い合わせがあった場合の説明について適切な措置をとられること」を要望するとしている。
さらに高麗人参製品協会は輸入先の韓国専売庁が協議して抗議を寄せた。韓国では高麗人参は国策事業であり、研究も進められていた。冊子には高麗人参の有効成分とされるサポニンも取り上げられていた。韓国のこれまでの取り組みを否定するような日本の動きには黙っていられないと言うことだろう、発行先の財団に厳重な抗議を申し入れたのである。つまり国際問題に発展する可能性さえ出て来た。
ともかく、この結果、以降発行分の冊子は健康食品対策室が所属する厚生省の食品保健課で行うことになった。つまり以降は健康増進栄養課の健康体力づくり事業財団の勝手にはさせないということになったということだ。
そして、その後にほとんど冊子を見かけなくなった。
「政治家の言葉じゃないが、馬糞の川流れだね」と葛西博士は嬉しそうに言う。この言葉は副総裁まで務めた金丸信の言葉だそうだが、ばらばらになって消えて行くと言う意味らしい。
(ヘルスライフビジネス2023年1月1日号「私の故旧忘れ得べき」本紙主幹・木村忠明)